時間軸を持つプロジェクト

「Tokyo Apartment」を「時間軸」と読み替える(前編)

では実際に、ヨーロッパで開催されるアワードのプレゼンテーションにおいて、東京特有の改修の一つの例として面白さや意義深さを伝えるにはどうしたら良いか。私は「Tokyo Apartment」で感じた違和感をあえて利用し、住居における「時間軸」に読み替えてプレゼンテーションを用意することにしました。また、今回はたった1分間のスライドの中でこれらのことを表現する必要があったこともあり、敢えて抽象的な表現を用いることにより、審査員から出来るだけ多くの質疑が飛んでくるようなプレゼンテーションにすることを意識しました。

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改修前の状態。40年前の間取りがそのまま残る。

特にFRAME AWARDは感度が高いインテリアデザインの作品が多く入選していたので、彼らと自分の作品を意図的に差別化する必要があります。そのため、説明的になってしまいがちな図面を載せず、新しい部分と古い部分の写真をランダムに織り交ぜることで、プレゼンの中に純粋な「時間軸」を生み出すような試みをしています。


光と風が通る家 / House of Wind and Light

このような「時間軸」を表現したかった理由は、リノベーションプロジェクトとしての意味を強調するためです。例えば築40年くらいの建物を改修する場合、新しいデザインだけについてのみ語ることは、その価値の半分しか語っていないことと同義です。このように、改修プロジェクトの中では以前の空間の記憶を引き継ぐことができるのも最大の魅力のうちの一つではないかと考えているからです。

今回はそのようなことを前面に押し出しつつ、日本におけるアパートメントの間取りが新陳代謝(メタボライズ)されていない問題を社会的な課題として捉え、批評を作品に込めることも大切にしました。具体的な審査講評までは聞いていませんが、もしこのような想いが評価につながってくれたのだとしたら、大変意義のある機会だったと思います。

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時間軸の設計

具体的に設計の中で何を行ったかということについては設計趣旨(アーキテクチャーフォト)のところにも書いてあるのですが、以下に一部抜粋してみます。

躯体である天井や壁は、吹き付け塗装をしてあったところや、下地が貼ってあったところ、壁がたっていた場所などが、そのままの姿でそこに残っている。「貼る」ことや「塗る」ことをせず、光と風を受けて空間に動きが生まれるレースのカーテンを壁面全面に「仕上げ」として採用することで、年代物の躯体壁をポジティブにとらえている。

また、そういった既存の状態を残すことで、新旧の切り分けがより明確になる。取り合いが象徴的になることで、新設部分のディテールや仕上げの繊細な美しさが際立ち、改修特有の緊張感が生まれるのではないかと考えている。また、改修前の状態がダイアグラムのようにして受け継がれていくようなことも、改修計画における醍醐味のひとつである。

仕上げだけでなく、細かなディテールの取り合いだったり、基本的なモジュールが全体にわたって踏襲されていたりといった繊細な積み上げは、緊張感のある空間を作り出します。それは、目立った何かがあるというよりは、その空間で感じる何気ない違和感につながっていたりします。何がその様な違和感を作り出しているか探ってみると、実は既存の躯体と対峙するその場所に、いつの間にかピリッとしたコントラストが生まれている。そんな時間軸を持った空気感が、改修における良さの一つだと感じています。

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Photo@ Ichiro Mishima

既成の評価軸について

最後に、本プロジェクトを通してもう一つ興味を持ったトピックとしては、「既成の評価軸を壊すこと」の重要性です。

例えば、新しいライフスタイルに即した「未来の住宅」を探っていくと、床面積や坪単価と言った規定の評価基準では測れない空間の豊かさがあることに気がつきます。「気積がものすごく大きい」とか「光がさんさんと入る」というのは、実際に体感して初めてわかる空間の質のことです。これは数字や図面だけでは表すことができない生きた指標です。このように、従来からある評価軸に変化が生まれるような空間を作り続けていくことは、住宅が進化していくためには非常に重要な課題であり、今後も様々なプロジェクトを通して考え続けるべき命題と捉えています。