ワールド・アーキテクチャー・フェスティバル(WAF)2023クリエイティブ・リユース部門 完成建築物部門受賞建築
カオマイ美術館とティー・バーン(茶室)は、タイのチェンマイにあるカオマイ・エステート1955が所有する、68年前のタバコ加工工場を改修再利用したプロジェクト。PAVAアーキテクツが手がけたもので、ワールド・アーキテクチャー・フェスティバル(WAF)2023クリエイティブ・リユース部門 完成建築物部門を受賞した。
本プロジェクトは、かつて栄華を誇ったこの地域の社会経済の中心を担っていたが見過ごされていた産業的なタイポロジーを再生している。古い納屋に新しい現代的な役割を与えることでこの地域を復活させ、また建築的・生態学的遺産の保存が都市開発の中のオアシスを創り出すことにつながっている。建築家はマスタープランと共生の枠組みを設計し、古いタバコ乾燥畜舎、年輪の入った樹木、新しい役割の共存のバランスをとることで、経済的、生態学的、そして敬意を持って地域の遺産を継承し、維持することを目指した。最終的に、カオマイ美術館とティー・バーンは、新しい教育、レクリエーション、商業プログラムで活きる役割を担い、納屋の価値と真正性を維持する繊細なデザイン介入によって変貌を遂げた。
第一美術館はレンガの表面、鉄筋コンクリートの構造、切妻屋根、空洞、炉、タバコ吊り棒などオリジナルの要素を修復して再設置、保存された。第二美術館はオフセットされた新しい基礎と鉄骨構造を用いて既存の納屋を補強し、拡張に柔軟に対応できるように改装された。追加された鉄骨のタイムライン・パネルが農園へのイントロダクションとなっている。日陰になる既存の大木は、樹木園の技術を採用して保存、ティー・バーンとの共存を保っている。ティー・バーンの前に設置された案内板は時間の痕跡を如実に示している。
ティー・バーンでは再利用したレンガと最小限の鉄骨で老朽化した納屋を改造し、公共利用や日除けの役割を持たせた。一段低くなった空間と開放的なガラス張りの壁は、周囲との水平方向のつながりや自然に近い感覚を演出し、同時に垂直方向の没入感のあるお茶を飲む雰囲気を際立たせている。水管理のための擁壁と砂利を床に追加しコンクリート橋の下にある電気・配管は隠され、新しい花崗岩のトップカウンターが完成し、家具には再生木材が採用された。暗闇で光る照明のデザインは伝統的な物干し小屋を彷彿とさせる。このような改築を経て、地域経済を活性化させる役割を担ったティー・バーンには今後農園を維持していくための新しい商業プログラムが導入された。
本プロジェクトでは地元の職人や元労働者を招き貴重な歴史的情報を提供してもらうとともに、納屋改造のためのオリジナルの工法や技術を共有してもらうなど、地元に根ざした取り組みを行った。これまでと同様、納屋の保存と改修にはすべて地元で入手可能な材料が使用された。さらに地元で人材を募集することで、人々の地元への回帰につなげている。カオマイ美術館とティー・バーンは、この絶妙な設計介入と運営の枠組みによって、地域の精神を尊重しながら維持していく道筋をつけ次の世代に伝えている。
- Kaomai Tea Barn Photo credit: Spaceshift Studio
- Kaomai Tea Barn Photo credit: Spaceshift Studio
- Kaomai Tea Barn Photo credit: Spaceshift Studio
- Kaomai Tea Barn Photo credit: Spaceshift Studio
PAVAアーキテクツ
タイのバンコクを拠点とする環境デザインスタジオ。気候変動、環境悪化、都市化といった課題に対応するため、建築、インテリア、ランドスケープ、都市を総合的に再生、適応、変革するための研究を行い、学際的な活動を実践している。