フィリップ・サルファティのプロジェクト、建築のストリート写真を集めた『テリトリーズ』がクラウドファンディングを募って出版
建築家/写真家のフィリップ・サルファティが、長期にわたり取り組んできた写真プロジェクト『テリトリーズ』をこのたび、クラウドファンディングを募って出版する。建築におけるイメージの重要性と、それが我々の建築物に対する概念に及ぼす影響をハイライトする内容で、建築表現の多様性についてポテンシャルを感じさせる一冊となっている。
フィリップ・サルファティは、写真家としての長年の活動のなかで、ソニー・ワールド・フォトグラフィー・アワード2019の受賞で初めて国際的な評価を得た。これ以降にも、15のフェスティバルやコンペティションでの受賞歴がある。直近では、Architizerの「ワン・フォト・チャレンジ2021」にて作品「Echo」が受賞を果たしている。2021年6月1日から30日まで開催されるロンドン・フェスティバル・オブ・アーキテクチャーでも、自身がデザインしたバーチャル個展を開催する予定。
この実験的なプロジェクトのきっかけは、ストリート写真の手法、特にそのランダムで自発的な要素を建築写真に取り入れたいという思いからだった。「建築アーティストであり、フィルムメーカーのイラ・ベッカとルイーズ・ルモインの映像作品に影響され、建物の空間や居住スペースを、そこを利用する人々の目を通して表現したいと思った。称賛される建物は、普段のたわいもない行動を劇的に囲うことで、我々の日常のドラマチックな背景となるのです」と、サルファティは語る。
建築は、物を大胆かつ強いラインで囲うフレームとして存在する。その一方で、人々はそこに生まれた空間になんらかの意味を見出す。我々の建築に対する見方が、その建物が持つ雰囲気を形成する。このパリ出身の若手建築家兼ストリートフォトグラファーは、人々の建築とのありのままの関わりを日々撮り続けてきた。その作品は、今やウェブや本で主流となっている、着飾ったショットやドローンからのショットとは程遠い。ただ、だれしもが、自身のコンテキストに合った筋書きを作ることができるということを証明している。
本書は、12カ国、52の建築事務所がデザインした99の素晴らしい建築を集めており、そのページ数は440を超える。233枚の写真を通して、そこに暮らす人々の価値観や、建物との関わり方が見えてくる。抽象的なフォトブックとしての性質と理論的な建築書としての性質を併せ持った本となっており、建築に異なる理由付けを、というプロジェクトの本来の目的を敷延する構成である。
建築の表現は、その計画や過程の断片を我々に見せることはなく、常に完成品を提示するという点では、間接的である。フィリップは、デザイナーやエンジニア、顧客や予算にまつわる小話など、通常は無視されてしまうような情報を写真とともに提供する。これにより、各プロジェクトについての理解を深めることができる。
本書は、ひとつの建物につき一枚の写真だけを最小限の説明文で掲載し、建物から建物へと「早送り」で進むことができる黒ページと、建物の様々な場所から撮影した写真を何枚も掲載し、あたかも建物内や周辺を「散策」しているかのような没入感に浸れる白ページを織り交ぜて構成されている。空間の持つ独自性を的確に描写することでその良さを増幅させる効果と、様々な側面を描写することで、有名な空間に新たな光を当てる効果の両方を併せ持っている。
本書は、その構成や編集、写真、グラフィックデザイン、文章に至るまで、全てフィリップ本人が手掛けたことにより、とても独特で個人的な内容になっている(国際的なブロガー兼コミュニケーション・マネジャーのクリスティアン・ビュルクラインによる序章を除く)。また、表紙を透明のカバーで覆うことで、好きな写真を挟んで自分だけの本に仕上げることができる面白い仕掛けもある。
刊行に必要な資金は、クラウドファンディングのウェブサイト/アプリ「Kickstarter」で調達する。また、写真イメージを閲覧できるインタラクティブ・バーチャル・ギャラリーも用意している。北欧の建築・コンテンポラリーアート・デザイン専門の大手出版社Arvinius +Orfeus出版より刊行され、CEO マリー・アルヴィニウスが発行や配本を担当する。
フィリップ・サルファティについて
フィリップ・サルファティは、パリを拠点に活動する29歳の建築家/ストリートフォトグラファー。パリで建築を学び、卒業後は、オランダ ロッテルダムの建築家集団MVRDVで就業。現在は、パリの建築デザイン事務所クレメン・ブランシェで働いている。