古民家での暮らしVol.4: 古民家と屋根2
古民家の屋根を見る際に注目する点として、前回に挙げた素材や工法の他に、屋根の構造と雨樋の状態があります。ここで言う屋根の構造とは屋根の斜面の組み合わせ方のことで、平家に切妻屋根や寄棟屋根が乗っているだけのシンプルな建物なら素人でも比較的簡単にメンテナンスが行えますが、古民家の多くは増改築が施されており、屋根の構造も複雑化している場合が少なくありません。
入り組んだ古民家の屋根は美しいのですが、斜面が合わさって屋根の構造に谷や谷樋と呼ばれる谷間の部分がある場合は注意が必要で、落ち葉などのゴミが堆積していたり大雨が降ったりすると、谷の部分に水が溢れて雨漏りするおそれがあります。その他にもケラバと呼ばれる屋根の端の部分や、入母屋造などの妻際や壁際のような屋根と壁が接合している部分も腐ったり雨漏りがおきたりしやすい部位と言えます。
また、ゴミが堆積して雨漏りの原因になりやすいのは雨樋も同様で、雨樋から溢れた水が軒を腐らすことがよくあります。そして、軒の出が短く雨樋が壁に近い場合などでは、大雨の際に雨樋から勢いよく溢れた水がそのまま軒や壁にかかって家を傷めることもあるので注意が必要です。
雨樋の掃除は古民家に限らず日本では欠かせない家のメンテナンス項目の一つですが、2階建以上の建物になると掃除を行うのが難しく、詰まったまま放置している家が多いのも現状です。特に前回挙げた土葺工法の屋根は、瓦の隙間から落ちてきた土が雨樋に溜まりやすいので、より頻繁に掃除を行った方が良いでしょう。また、家の近くに木や竹が生い茂っている場合も雨樋にゴミが溜まりやすいので、同様に雨樋の掃除をこまめに行う必要があります。
これから古民家を手に入れたいという人は、できるだけシンプルな構造で、雨樋の掃除が行いやすい屋根の家を選ぶ方がメンテナンスが楽ですが、もうすでに古民家に住まわれている場合や、難点を理解した上でそれでも屋根が複雑に入り組んだ美しい家に住みたいという場合は、定期的に谷間部分や雨樋の掃除を行うことをおすすめします。
掃除を行う時期ですが、梅雨入り前の四月から五月頃には特に屋根や雨樋の状態を確認して、必要そうであれば掃除を行っておきましょう。特に近年、温暖化の影響によるためか、日本では毎年六月から九月頃にかけて豪雨や台風の被害が相次いでいるため、通常の雨なら雨漏りをしない家でも、滝のような激しい雨が降ることによって一時的に雨漏りが起きるケースをよく聞きます。また、そのような激しい雨が降った後や、台風など強風が吹いた後も屋根や雨樋にゴミが詰まっていることがあるので、状態確認を行い、必要であれば掃除をしておくことをおすすめします。地方によって時期や必要性は変わってきますが、落葉した後や積雪の前にも屋根や雨樋の掃除をしておくに越したことはありません。
ちなみに、西日本の太平洋や瀬戸内海に面した温暖なエリアでは、冬の間は雨や雪が降ることも少なく、天候が安定して晴れていることが多いので、本格的な屋根の修理や手入れをするならこの時期がおすすめです。ただし、屋根の塗装やシーリングを行う場合は気温が低すぎると塗料などが使用できないため注意が必要です。
風雨や積雪、日差しに晒され、家で最も過酷な環境にさらされる屋根は特に合理性が求められる部分であり、その結果、近年では複雑な形状の瓦屋根よりも比較的安価でメンテナンスも容易であるシンプルな形状の金属屋根や洋風スレート屋根が主流になりつつありますが、日本瓦の屋根は単に日本らしい美しさがあるだけというだけでなく、日本の環境下では現在ある屋根材の中でもっとも耐久性が高く、防音性や断熱性にも優れた素材です。
海外の建築物を見て回った後に、改めて現代日本の半端な洋風建築を目にすると、それはあくまで洋風建築を真似た粗悪なコピー品や、大量生産された安価な家という印象が否めず、柱と土壁と瓦屋根からなる古民家のたたずまいの方が日本の風土には美しく映えていることに気づきます。特に入母屋造などの形状はヨーロッパにはほとんどなく、木造家屋が主流の東アジアに見られる特徴的な建築構造だと言えます。入母屋造の妻壁はもともと古代の縦穴式住居の煙出しだったものの名残であるとされ、越屋根は屋根裏で養蚕が行われていた頃の名残であるなど、屋根の形状から見て取れることも色々あり、家や屋根の造り、瓦の種類などからその土地の気候や風土、かつての経済力やどのような産業が行われていたかなどを推測しながら古民家の残る古い街並みを歩いてみると、より一層古民家の魅力を知ることができるでしょう。