古民家での暮らしVol.3: 古民家と屋根
古民家の状態を確認する際、まず最初に目に入るのが屋根の状態です。屋根の状態はその建物がどのくらいメンテナンスされているか確認する際の重要な目安になり、また屋根の形状や瓦の種類からその土地の気候や文化、かつての物流なども垣間見ることができます。
例えば地中海に似た気候の暖かい瀬戸内海側から、中国山地を越えて寒い日本海側へ抜けていく道沿いに古民家の屋根を見ていくと、瀬戸内側では様々な瓦や素材が使われ、釉薬のかかってない瓦もよく見かけますが、雪の積もる山間部に差しかかるにつれて、より耐水性の高い釉薬瓦や、雪が屋根から滑り落ちてこないようにする雪止めのついた屋根が増えていき、日本海側にさしかかると積雪や塩害に強い赤茶色の石州瓦が目立ってきます。その変化の様子を見ていると、「この辺から雪が多くなるんだな」とか、「ここがかつての貿易ルートの変わり目なんだな」といったことなどが感じられ、とても趣深いです。
また、地方や農村部では今でも茅葺の屋根が残っていますが、職人の減少に伴って茅を葺き直すことが難しくなったため、茅葺屋根のまま残っている家は少なく、ほとんどの茅葺屋根がトタンなどに覆われた状態で残っています。
あなたが移住先として古民家を探すなら、屋根の状態は注意して見ておきましょう。部分的な雨漏り程度ならともかく、本格的な屋根の改修はDIYで対処するのが難しいため、業者に頼まなければいけないことが多く、特にお金のかかる部位の一つだと言えます。
そして、もし移り住もうかどうか悩んでいる家の屋根の状態が悪いのであれば、できるだけ早く決断して屋根を直す必要があります。日本の木造住宅は通気性が悪く湿度の高い場所や雨水のかかる場所から傷んでいくので、雨漏りが発生すると傷む部位が急速に広がっていき、そのまま雨漏りを放置して屋根に穴が開くと急激に家が崩れ始め、ほんの数年で取り返しがつかなくなってしまいます。
屋根をどの程度修繕すればいいのか判断する際には、どのような素材や手法が使用されているか、屋根の重さと建物の耐久性が釣り合っているかといったことも重要になってきます。
もし建物の柱や耐力壁・筋交の数が少なく、耐震性が低い構造なのにも関わらず、茅葺屋根や瓦屋根など重たい屋根が乗っている場合、地震が起きた際に屋根の重さに家が耐えきれずに潰れてしまう危険性があります。かといって屋根を軽い素材にすると、今度は台風や突風などに弱く、屋根や家が飛ばされやすくなります。理想は柱・耐力壁・筋交等をしっかり入れて屋根よりも土台や壁を重くした上で瓦屋根を突風などでも飛ばないように設置することですが、壁や柱をあまり増やしたくないのであれば、屋根を軽い素材に変えた上で家や屋根を飛ばされにくくする工夫が必要になります。
また、昔の瓦屋根は野地板という杉板の上に杉の木の皮を貼り、その上に粘土質の土をのせて瓦を固定するという方法で屋根を葺いていたため、屋根がとても重いうえに地震があると瓦がずれ落ちてくる危険性が高く、雨漏りをしていなくても葺き直した方がいい場合があります。杉の木の皮の代わりに防水シートを引き、瓦を固定している土の代わりに発泡ウレタン系の接着剤を使用し、瓦をビスなどで固定するようにするだけで軽くずれ落ちにくくなり、雨漏りのリスクも減ります。
お金をかけずに雨漏りを直そうとした古民家では、よくトタン製の波板等に葺き替えられていたり、瓦屋根の上にトタンが乗せられたりしています。トタンの寿命は5~20年とされ、少し錆がでているくらいなら錆を落としてペンキを塗り直すことで対応できますが、錆がひどく穴が開いている場合は新しいものに交換した方がよいでしょう。ガルバリウム鋼の場合はトタンよりも寿命が少し長く、20~30年もちます。また近年は日本家屋の景観を損なわない瓦屋根のような見た目の瓦風ガルバリウム鋼板というものもあります。
主に第二次世界大戦中から戦後にかけて安価だったためよく用いられたセメント系瓦は注意が必要で、寿命は30~40年と言われるものの、10年おきにペンキ等で塗装をしないと防水効果がなく、塗装が剥げたまま放置され激しく劣化し、屋根としての機能を充分に果たしていないセメント系瓦が多くあります。
今でも一番耐久性が高いのは粘度を焼いて作った日本瓦などの瓦で、50年~100年はもつと言われています。