不完全さを楽しむ建築

デザインスタジオのタッチ・アーキテクトがタイ・バンコクのフレンチパティスリー専門店「フレンチ・キッチュ III」を手がけた。パティスリーであると同時に、オーナーのフレンチブルドッグへの愛情がブランドアイデンティティとなり、遊び心がありながらもエレガントなイメージをカフェに表現している。クロワッサンという不完全な形を、建築の要素や素材を通して不完全さを貴ぶ芸術である 「キッチュ 」のコンセプトとともに、このイメージを高めることを目指してデザインされた。

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Photo credit: Metipat Prommomate

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Photo credit: Metipat Prommomate

リズミカルなアーチの展開はフランスの大聖堂を参考にデザインされた。左右対称のアーチの代わりに、異なるスケールの不完全なアーチが使われている。完全な長方形の塊から始まり、1階には不完全なアーチを、2階には不完全なアーチを反転させることで不完全な形を演出。1階では、このアーチがアンティークでありながらモダンなルックスで訪問者を包み込み、小道に沿って影を作る。アーチ型の窓を光が通り抜けると、大聖堂のガラスのように床に反射が生じる。また、特大の不完全なアーチは、カウンターから2階まで連続した空間を作り出し、フル機能のカウンターを際立たせ、両方の階から見えるようにしている。2階では、逆カーブに空洞を刻むことで、日射を取り込みながら遮光も可能にしている。

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Photo credit: Metipat Prommomate

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Photo credit: Metipat Prommomate

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Photo credit: Metipat Prommomate

質感のあるコンクリートを採用し、壁それ自体が美しくなりうる素材の特性を反映させ、不完全の完全というコンセプトを強めている。また、コンクリートをメイン素材とすることで、家具や装飾、LED照明が際立ち、トンネル空間内の不完全なアーチ曲線を強調し、カフェのイメージを強く印象づけた。

タッチ・アーキテクト

建築家のセッタカーン・ヤンダームとパーピス・リーラニラムによって2014年に設立された、バンコクを拠点とするデザインスタジオ。ミニスタジオから将来性のある会社へと発展し、設計、施工、管理の各チームと協力してプロジェクトを手がけている。持続可能な建築美学、文化的感受性、環境への配慮、文脈上の実験を踏まえ、人間の基本的なニーズに向き合っている。機能的で実用的な住居のみならず、普遍的な構造とシンプルな素材を用いている。