オフィス、研究スペース、カフェ、パブリックエリアなどからなる複合施設のTHE CAMPUS
コロナ以前の日本国内では、都心を中心にオフィス物件のニーズが活況を呈していたが、その動きは反転しつつある。テレワークが急速に普及するなか、自社オフィススペースの解約や縮小移転に踏み切る企業の動きもある。しかし、その一方でオフィスの価値が再定義され、オフィススペースはただ仕事をするのではなく、訪れた人に希望やインスピレーションを与える場となるよう、仕掛けを施した空間も徐々に生み出されている。
こうした取り組みの一例としてご紹介したいのが、オフィス家具・文具メーカーとして知られるコクヨが2021年2月にオープンしたTHE CAMPUS(ザ・キャンパス)。THE CAMPUSは、同社が未来につながる価値を探求するため、さまざまな専門性や経験を持つ人々とともに同社が生み出した複合施設だ。ライブオフィス、新規技術の研究スペースからなる「OFFICE AREA」と、カフェやショップ、新規事業開発の場としてのオープンイノベーション拠点(OPEN LAB.)などからなる、社外の人も利用できる「PUBLIC AREA」で構成され、全館を通じて実験、実践する場となっている。今回はコクヨの広報、片桐さんに“みんなのワーク&ライフ開放区“という施設のコンセプト設定背景やTHE CAMPUSの大きな特徴のひとつである、自然との共存を意識した空間デザインについて伺った。
伊藤:THE CAMPUSは、“みんなのワーク&ライフ開放区“をコンセプトに掲げ、自社のオフィス機能に加え、ユーザー及び周辺地域の人々も利用できるエリアを併設されています。このような空間を取り入れた経緯を教えてください。
片桐:コクヨは働き方、学び方を提案しています。品川オフィスをリノベーションする際、30年先の働き方を考えた時に、(コロナ禍でそのスピードはかなり速くなりましたが)働くことと暮らすことが混じり合い、仕事は会社の中だけでなく、社会や街とのつながりがもっと強いものになると考え、「街に開く」ということをテーマとしました。社員が自分たちの仕事が社会とつながっていることを実感できる場にしたいというのもテーマの1つでした。
伊藤:なるほど、そのように社会とのつながりを生むため、PUBLIC AREAも併設されているのですね。PUBLIC AREAの屋外空間「PARK」は、周囲を囲むような形ではなく、街に対して開かれたダイナミックな設計がされていますよね。周囲を囲むことで、都会のノイズをシャットアウトし、違空間を作りだすこともできたと思いますが、なぜこのような設計にしようと考えたのでしょうか。また、ウッドデッキを階段状に配置している意図も教えていただけますか?
片桐:1階全体を中と外が一体となったランドスケープとなるように、階段状の空間をPARK・COMMONS・PARKSIDEに連続するように配置し、象徴的な居場所としました。 また、奥のウッドデッキを階段状とすることで街の歩道側からPARKの様子が立体的に見え、奥まで街の人々を誘い込むことを狙っています。
伊藤:「PARK」エリアには、約230種類以上の樹種や稲穂があったりと、都市での日常生活ではなかなか見れない珍しい品種の栽培や日本の原風景が再現されているそうですが、ただ見た目に美しいではなく、植物の多様性にこだわった理由は?
片桐さん:オフィスに来た時に、毎回違った様子(木々の移ろいなど)を感じられるように、多種多様な種類の植物にこだわりました。
伊藤:PUBLIC AREAだけではなく、OFFICE AREAにもアートや自然を取り込んでいらっしゃいます。なぜこの点を重視したのでしょうか。
片桐さん:生活の中で大きな割合を占める仕事をする場所がまずシンプルに居心地のいい場所であること、というのが重要なためです。また、リモートワークが当たり前になった今、オフィスに来る目的として、ただ1人で作業をするのではなく、チームでアイディアを出し合ったり、創造的な仕事のためにくることがメインとなることを想定していました。
そのため、余白の部分で感性を刺激することが大切であると考えたため、アートや植物を取入れました。
伊藤:今後御社のような取り組みが増えることで、社会はどのように変わっていくと思いますか?
片桐さん:今後ますますオフィスに行くのが当たり前でなくなることが予想されます。ただ、チームで集まったり、人との繋がりは創造的な仕事をする上でとても重要です。オフィスに行きたい、オフィスに行くといいアイディアが出る感じられる場所として、心を穏やかにしたり、感性を刺激する豊かなグリーンは重要であると考えます。
コロナに伴って変化した働き方であるが、同時にワーカーの意識、そして彼らが求めるものも変化しつつある。THE CAMPUSのように、自然にすぐアクセスできるレイアウトを取り込んだり、屋内にも自然が感じられるデザインや家具を取り入れ、ワーカーにとって安心して働くことを実現しようとする動きは今後も加速していくのではないだろうか。