Moment Factoryによる新宿駅の大型デジタルサイネージを利用した新しい空間演出
一日に370万人が利用する新宿駅は、世界で最も忙しい交通ハブである。新宿駅の再生プロジェクトの一環として、新宿駅東西自由通路に空間演出型媒体の大型デジタルサイネージが設置され、その環境演出コンテンツを任されたのが世界最高峰のデジタルアート集団「Moment Factory」である。光・音・映像を連動させた従来の駅にはない媒体を用いて、新宿の新たな都市景観を創造している。
2020年に新しく開通した東西自由通路は、多くの人々が毎日の通勤で利用する、駅構内の主要通路である。JR東日本企画は、新宿の新しいシンボルとなるようなスペースを目指して、世界各地でユニークなプロジェクトを展開するMoment Factoryに環境演出を託した。
シンガポールのチャンギ空港やロサンゼルス国際空港、そしてニューヨークのモイニハン・トレインホールなど人のスムーズな流れを優先した空間設計を手掛けた経験を元に、Moment Factoryは、モントリオールと東京のクリエイティブとテクニカルチームが協力しながら、交通量の多い新宿駅に適した空間演出を創出した。
安らぎを与える交通ハブへ
Moment Factoryが考案した「新宿カラーバス(色彩に包まれる)」と名付けた空間コンセプトのもと、光・音・映像を連動させた新しい媒体を用いて、空間全体を包み込むよう設計された環境演出。駅を行き交う人々が、時にリラックスしたり、時に活力がみなぎるような効果をもたらすことを目指している。24種のユニークなパターンで新宿の多様性や、季節、一日の移ろいを表現。新宿の四季折々の風景を映し出し、地域の魅力を発信している。流れながらも、人々が安らぎを得られるような空間が実現されている。
この全長100m、最大幅25mの通路を、テキサス州オースティンの全人口を上回る数の人が毎日行き交う。プロジェクトの鍵を握ったのは、狭くて閉塞感のあるトンネル内にどれだけの快適空間を作れるか、ということだった。トンネルには、案内板や非常口誘導灯、広告などの情報が溢れ、それらを考慮しながらデザインに組み込むことが求められた。全てのコンテンツが共存できるような、マルチメディアなキャンバスが必要とされたのである。新宿の空をイメージさせる暖かで友好的な色で彩られた空間は、従来のような閉塞感のあるありきたりな通路ではなく開放的な空間へと生まれ変わった。
さらに、通路の半分ほどを占める日本最大級の45mの高精細LEDスクリーンと、戦略的に配置された照明が空間に深みと余裕をプラスする。新宿の景観にインスパイアされた演出は、時間帯や季節に応じて変化し、常に新しい体験を提供する。統合された制御システムにより、柱面に設置された25面のデジタルサイネージと音声とが連動した圧倒的な演出が可能となり、空間全体をジャックしたブランディング広告を展開することもできる。
交通量の多いハブの課題
Moment Factoryはアイコニックなマルチメディアインスタレーションで、これまで多くの人々に新たな旅行体験を提供してきた。驚きや発見に満ちた体験を提供するには、群衆流動とオペレーションに対する洗練された正しい知識と理解が必要とされる。世界一の利用客を有する新宿駅ではそのチャレンジはなおさら大きかった。
人の流れを止めず、渋滞を引き起こさないために、Moment Factoryは、立ち止って鑑賞するのではなく、環境を感じながら動き続けることができるコンテンツを考案した。ロックミュージシャンの公演など、ミュージシャンが主役となる場面のコンテンツを手掛けてきた経験を活かし、主役を引き立てながらも必要以上に注意を引くことなく、建築物の一部として周囲に溶け込む演出にフォーカスしている。数々のUXやVRのテストが行われ、人々の反応や抱く感情、表示されたものを身体でどのように感じるのか、などを研究し、理解に努めた。そしてスピードや表示時間なども含め、空間を満喫できるよう細部に至るまで最適化した。
新宿プライドを育むインスタレーション
国内最大級のメディアインスタレーションとして、Colour BathはYouTubeやインスタグラム、ツイッターなどのSNSを通じて広く知られるようになった。駅の利用者が、写真やセルフィー、動画などを拡散することで、新宿の新たな魅力が発信されていくのだ。行き交う人々により、ただの交通ハブだけでなく、新宿プライドを育む新たな文化の発信地ともなっている。
本プロジェクトは、エリア全体の空間価値を高める点が高く評価され、「デジタルサイネージアワード2021」でグランプリを受賞。今後のサイネージ設置事例のベンチマークとなっている。
Moment Factoryについて
Moment Factoryは幅広い分野のエキスパートが一つ屋根の下に集まったマルチメディア・スタジオ。映像、照明、建築、音響、特殊効果といった様々な専門分野を統合したチームで、人々にとって忘れられない体験を提供することを目指して活動している。現在、カナダのモントリオール本社を含め、東京、パリ、ニューヨーク、シンガポールに拠点を持つ。2001年の創立以来、オリジナルの作品であるルミナ・ナイトウォークシリーズを含めた400以上ものユニークなプロジェクトを世界各国で展開してきた。各国の主要国際空港、様々な業界を牽引するリーディング企業、大規模テーマパーク、国内外のトップアーティストとそのレーベル、世界中のクライアントとのコラボレーションなど多様な実績を誇る。