スパラノ+ムーニー建築事務所によるユタ州立大学 芸術関連施設の改装・増築
アメリカのユタ州を代表する建築事務所「スパラノ+ムーニー」が手掛けた、ユタ州立大学の3つの芸術施設がこのたび完成した。さらに、2025年オープン予定のアート研究教育施設の完成をもって、およそ10年に及ぶ大規模プロジェクトが完結する。
プロジェクトの舞台は、アメリカ合衆国ユタ州のローガン市にあるユタ州立大学。3つの建物の新設を含めた大がかりな増築と改築を経て、芸術キャンパスがダイナミックな変身を遂げた。新設されたのは、シド・パークス演劇デザイン複合施設、デインズ コンサートホール、ノラ・エクルズ・ハリソン美術館(NEHMA)。そして最も新しい建物、アート研究教育センターは、NEHMAの一部として建てられ、2025年のオープンを控えている。素晴らしいアートコレクションの数々に触れられる環境を作り、研究者、教員、生徒、そしてより大きなコミュニティに開けた施設を目指す。長期にわたるプロジェクトであったにも関わらず全体を通して一貫しているのは、周囲の環境に溶け込み、建物同士が相互に特別な関係を持って調和することを重視した、制御された造りと、細部まで行き届いた素材の革新性へのこだわりである。
ノラ・エクルズ・ハリソン美術館(NEHMA)
建築家 エドワード・ララビー・バーンズによって建てられた従来のNEHMAの建物は、ユタ州立大学の芸術センターに増築する形で1982年に建てられた。今回スパラノ+ムーニーが増築した部分は、既存の建物と競うわけでも真似るわけでもなく、控えめな外観である。世界的な建築事務所、ササキ・アソシエイツが手掛けた個性的なアートセンターが隣接しているが、そのアートセンターとも違和感なく調和するよう緻密に計算されたデザインで、増築部分によってできた新たなプラザが、ふたつのビルを周囲の景観を壊すことなく繋げている。
デインズ コンサートホール
ニューエル&ジーン・デインズ・コンサートホールは、既存のケントコンサートホールを、オーケストラ、バンド、合唱などの活動のための最先端の施設にフルリノベーションするプロジェクトとなった。新しい音響構造のために壁を入れ替え、音響、照明、舞台装置などをアップグレード。演者と観客両方にとって、音響パフォーマンスが強化された空間となった。最先端のコンサートホールによって、地域の人々が世界水準の音楽やアートプログラムに触れることができるようになった。
シド・パークス演劇デザイン複合施設
ユタ州立大学演劇学部とケイン・アートカレッジの一部となる本プロジェクトでは、従来の舞台美術と衣装の工房に約740㎡の増築をした。既存の工房は、モーガン・シアターをはじめとした近隣の劇場を支えており、地域になくてはならない施設。今回の増築と改築により新たなペイントブースとゴミ処理システムが加わり、舞台のデザインや設営に必要な装置や道具、倉庫スペースを提供することが可能となった。施設の上階には、教員用のオフィスに加え、教室や舞台衣装の製作に使用できる作業スペースなどが新設された。新しい裁縫ステーションが設置され、作業台や収納スペース、フィッティングルーム、染物用の設備、ランドリー設備も完備されている。
アート研究教育センター
NEHMAに隣接して建てられる本施設は、2025年の夏か秋のオープンを予定している。年々増え続けるNEHMAの美術品の40%を所蔵する施設となるだけでなく、今後さらに求められる、より密接に関わる教育現場の実現を目指している。ギャラリースペースの増加に加え、新しい建物の倉庫エリアには外から見える部分を設けて、ギャラリーに展示されていない所蔵品も人々の目に触れられるようにする。美術館がどのように所蔵品を取り扱うかを見ることによって、訪れた人がデータベースを調べるなどしてアートとより密接に関わり、探究心を持ってアプローチするきっかけとなれば、と考えている。
スパラノ+ムーニー建築事務所について
スパラノ+ムーニー建築事務所は、アン・ムーニー(アメリカ建築家協会)とジョン・スパラノ(アメリカ建築家協会フェロー)が設立した建築事務所。人々とコミュニティ、ランドスケープとの繋がりを育む空間づくりで知られている。この20年で、美術館、コンサートホール、劇場、文化センターなど、ランドマークとなるデザインのアート/文化施設を数多く手掛けている。事務所のこれまでの実績を称えて、モノグラフ『Sparano + Mooney Architecture, A Way of Working』(著:ハシェ・カンツ/Hatje Cantz)が2022年8月に発刊された。伝統と歴史を重んじながら、最先端の技術や素材も取り入れる建築ソリューションにより、コミュニティの向上に貢献する空間を創り続けている。