ケベック州政府主催の建築コンペティションにより決定した新図書館デザイン
ケベック州政府は、文化的インフラの環境を整えることがコミュニティの発展に繋がるとの考えのもと、町の規模の大小は問わず、文化施設建設に助成金を投入する施策を行ってきた。その結果、ケベック州にはこの20年間で、多くの立派な劇場や博物館、公共図書館などが建設された。政府が文化施設建設の際に行う建築デザインコンペには、クリエイティブな建築アイデアが数多く集まり、その結果、小さな町にも現代的な建築物が見られるようになってきた。モントリオールから車で一時間ほどの人口10,000人の田舎町、マリービルに建設される図書館も例外ではない。2020年7月に募集を開始した新図書館のプロジェクトには、19作品のエントリーがあり、そのなかから選ばれたのが、光を介入させる繊細なデザインで知られるアン・キャリア建築事務所の作品だった。審査結果は2021年2月に発表され、プロジェクトの完成は2023年を予定している。
プロジェクトの背景
他の地方都市と同様、マリービルには、石造りの教会など、その豊かな歴史を物語る重要な建築物が数多く残っている。新図書館は、100年以上の歴史のある公園と石造りの教会の、道路を隔てた向かいに建てられる。旧図書館はこの教会の地下に設置されていた。豊かな樹木が茂る公園には、モニュメントやキオスクがあり、広場でコンサートなどのイベントが行われる。かつての教会の遺跡は、考古学的遺物として慎重に保存されている。
図書館は歴史的な住居が多く残り、近くを流れる川に並行して走るメインストリートから分岐した通りに面している。ここ数年は、この中心地に図書館や地域サービスなど行政の軸となる機能を集めており、その過程で建築家たちは地域の歴史と今後の発展すべき方向性について深い考察を重ねてきた。
新図書館は、2012年に取り壊されたかつての図書館が建っていた1,155㎡ほどの敷地に建てられる。長細い土地の形と、考古学的な価値を持つ保護地区であることから、図書館も長細い形に設計された。コンセプトが進化するにつれ、メインストリートに沿って分布する公園や遺跡、泉、教会の中庭など近隣の名所も含めた構想へと発展していった。図書館の1階の床には、メインストリートやその周辺の小道を連想させる斜線が引かれ、周囲の環境をイメージさせるとともに、外に出たところに三角の広場を形成している。周辺の学校から訪れる学生には、入口へと導く視覚的なガイドともなっている。3階建の吹き抜けロビーにそびえるらせん階段は、この地域に未だ多く見られる穀物サイロに見立ててデザインされている。
コンセプト
コンペにエントリーするにあたり、建築家たちが最優先したのは、公園に面した建物西側の透明性と開放感だった。設備は建物東側に沿って設けることで、公共エリアは西側の公園の緑豊かな雰囲気に直結している。新図書館は、3階建の建物2棟が、エレベーターとらせん階段、そして2つの連絡通路によって連結している。中央のロビーは全ての階に繋がっており、そこからは、建物内を一望できるだけでなく、周囲の教会や公園、メインストリートなど外の景観を望むこともできる。
建物に入ると、左は多目的スペースとダンススタジオのエリア、右は図書館の受付と子どものためのスペースとなっている。2階の北側には、市民が利用できる共用キッチンと教室があり、雑誌/新聞エリア、そして小さなカフェがある。最上階は、全て図書館の施設となっており、大人/若者向けの蔵書や読書スペース、メディアラボ、そして管理事務所がある。
10年以上もの間、教会の暗い地下にあった図書館を利用していた市民にとって、明るく開放的な環境での読書を可能にするこのプロジェクトの持つ意味は大きい。建築家により提案されたプロジェクトの持つ明るさと新たな視点は、この地に学びと発見をもたらしてくれるだろう。
アン・キャリア建築について
1992年設立のアン・キャリア建築は、独創性、クオリティ、そして耐久性にフォーカスする建築デザイン事務所。都市の文化的景観と環境との調和をもとに入念な分析とプロセスを踏む。複雑な条件下でも、シンプルで効果的かつサステイナブルな方法で数々のプロジェクトを成功させてきた。概念的、審美的、技術的なアプローチで「自然光と透明性」が操る空間を創り上げる。2016年にカナダ総督から授与された建築賞を含め、過去10年間で35以上の賞や栄誉に輝いている。モントリオールのオクタゴンに建設中の図書館プロジェクトも、コンペを勝ち取って担当している。