アカラン・アーキテクツがテヘランの歴史的モニュメント「エテハディエ・ハウス」を公共施設へ再生

イランの首都テヘランにある「エテハディエ・ハウス」は、いくつもの建物と中庭で構成された、築150年を誇る歴史的建造物である。テヘランのシャンゼリゼ通りとも言われる「ラレザール通り」の中心に位置する9000㎡もの膨大な敷地は、かつてイランの君主アル=ディン・シャーの財務官だったアミン・アル・ソルタンが所有しており、王族が国賓をもてなす際に利用されていた。「Emaarat」と名付けられた中心的な建物は、アミン・アル・ソルタンのメイン住居として機能していたこともある。古都テヘランの主幹道路であったフェルドウスィー通りとラレザール通りの間にあったため、歴史的な活動や集会、クーデターなどの舞台となることもあった。そして、105年ほど前に、エテハディエ一家がタブリーズより移り住んできた。

adf-web-magazine-house-of-ettehadieh-teheran-akaran-architects-1

After restoration, Photo credit: Arash Rezvani

エテハディエ家が大きくなるにつれ、新しい家族のために家屋が増築された。建材のほとんどはパフラヴィー朝(1925-1979年)のもので、住居群としての規模のピークは1940年代であったことが航空写真などからわかっている。1970年代になると、第二次世界大戦中のイランの人間模様を描いた小説をドラマ化した大ヒットテレビシリーズ「親愛なるナポレオンおじさん」の撮影セットとして利用された。それ以降、「ナポレオンおじさんの家」の呼び名で親しまれている。

adf-web-magazine-house-of-ettehadieh-teheran-akaran-architects-8

After restoration, Photo credit: Parham Taghioff

1979年のイラン革命により王朝が終焉を迎えると、ラレザール通りの近代化が進み、エテハディエ・ハウスは、家族が新たな住居へ移ったり国外へ移住したことで、空家となった。

adf-web-magazine-house-of-ettehadieh-teheran-akaran-architects-18

After restoration, Photo credit: Arash Rezvani

文化的アイデンティティと遺産

その歴史的、文化的なバックグラウンドにより独自のアイデンティティを築いてきたエテハディエ・ハウスは、歴史遺産として認められ、保存・修復のために、2013年にテヘラン市によって買い取られた。そして、カルチャーハブとしてのラレザールのかつての姿を取り戻すべく、エテハディエ・ハウスをコミュニティセンターなどを含む公共施設へと再生する取組みが始まった。修復プロジェクトを手掛けたのは、テヘランとロンドンを拠点に事業を展開するアカランアーキテクツ。

adf-web-magazine-house-of-ettehadieh-teheran-akaran-architects-24

During restoration, Photo credit: M. Tayaran

かつて、とある一族の住まいだった場所が、今は市の所有となり、早くも地域に活気が戻ってきている。再生された施設は、テヘランの歴史を懐かしむ名所となるだけでなく、あらゆる人々が利用できる場所を目指している。

adf-web-magazine-house-of-ettehadieh-teheran-akaran-architects-14

After restoration, Photo credit: Arash Rezvani

長年埋もれていたことにより、層が幾重にも重なった現場は、まさに考古学のキャンバスであり、プロジェクトの進行においては、古いパーツの保存と新たなパーツの建設に正しい判断が求められた。歴史的価値のない大量のがれきや付着物は、慎重に取り除かれる必要があった。そして、複雑な模様の石膏やタイル、暖炉、フローリング、天井などの遺産的要素が強いものは、本来の姿に復元されることが決められた。

adf-web-magazine-house-of-ettehadieh-teheran-akaran-architects-22

During restoration, Photo credit: M. Tayaran

adf-web-magazine-house-of-ettehadieh-teheran-akaran-architects-19

During restoration, Photo credit: M. Tayaran

9つの池と工芸品、2つの柱廊(地下の基礎構造に石膏で埋められていた)、浴場などが発見され、順次掘り起こされて保存された。取り壊して廃棄されていた庭「Hozkhaneh」は、一から作り直され、新しい個性を吹き込まれて再生した。歴史的な写真や航空写真などを考察し、考古学的なアプローチを行うことで、様々な発見が可能となった。見つけられた空間にはそれぞれに新たな解釈が加えられ、ギャラリースペースやカフェ、レストランや読書スペース、事務局などから成る地域に開けた施設へと変身した。

adf-web-magazine-house-of-ettehadieh-teheran-akaran-architects-20

During restoration, Photo credit: M. Tayaran

adf-web-magazine-house-of-ettehadieh-teheran-akaran-architects-21

During restoration, Photo credit: M. Tayaran

新設されたのは、地下の劇場とギャラリーである。建築家たちが「Forum」と呼ぶ建物は、ダブルハイトの110㎡の多目的ホールで、地下の一番下の階にある。天井が古い馬車置き場だった建物の地階と同じ高さになっている。1世紀前の空間と最先端の空間を行き来することで、時空を超えて旅しているような気分になる。

adf-web-magazine-house-of-ettehadieh-teheran-akaran-architects-5

After restoration, Photo credit: Parham Taghioff

地下には、さらにワークショップやギャラリーとして機能する2つの空間の増設が計画されている。螺旋状の通路を介して繋がるこれらの建物は、市によって買い取られた近隣の敷地に建てられる予定で、地域一帯の再生に貢献することとなる。

adf-web-magazine-house-of-ettehadieh-teheran-akaran-architects-6

After restoration, Photo credit: Parham Taghioff

コロナ禍にあり、プロジェクトがフル稼働できなかったため、施設全体の一般公開に遅れが生じてしまったが、一部の庭や劇場、ギャラリーは既に文化的な集会やイベント、講演会などに利用されている。再生された「Hozkhaneh」では、世界的音楽家のカイハン・カルホルのコンサートを行い、オンラインで公開した。また、コロナ禍においても、映画上映会がたびたび開催された。

adf-web-magazine-house-of-ettehadieh-teheran-akaran-architects-10

After restoration, Photo credit: Parham Taghioff

ラレザール通り、フェルドウスィー通り、バルバッド小道に面した3つの出入り口を備えた施設は、アクセスもしやすく、4つの中庭ではいつでもイベントが行える。個性豊かな空間にはそれぞれ初期の所有者にちなんだ名前が付けられており、かつての私的な建造物が今はコミュニティのための公共の建造物へと再利用されている事実を伝えている。

adf-web-magazine-house-of-ettehadieh-teheran-akaran-architects-4

After restoration, Photo credit: Parham Taghioff

 アカランアーキテクツについて

Ákaran Architectsは、Moeen AfzalkhaniとZahra Aziziによって2010年に設立された建築デザイン事務所。テヘランとロンドンに事務所を構えている。社会的、政治的、文化的環境との対話の延長、また日常生活の延長として建築を捉え、手掛けるプロジェクトでは、クライアントの個性とコンテクストを尊重した空間を提供している。多様な分野を横断する、建築の専門家チームを擁し、適切な技術とコラボレーションを介して、完璧なクラフツマンシップと美を維持できる建物を生み出している。そして、クリエイティブ思考と合理的な問題解決へのアプローチにより、より美しく、魅力的で、必然的な空間ををクライアントに提供し、よりよい街づくりを目指している。