タイプ(フォント)とグラフィックデザイン
2019年4月9日、フォントメーカーのMonotype Imagingは、新たな書体ファミリー「Helvetica Now」を発表した。これは、世界で広く使われている定番フォントファミリー「Helvetica」をデザインし直したものでフォントメーカー業界だけではなく、フォントを扱うデザイナー業界でも大きな話題となった。
このフォントのリデザインが注目を集めるなか、2019年5月8日NYのパーソンズスクールオブデザイン(Parsons School of Design)にて、「タイプ(フォント)×グラフィックデザイン:クラフトとオリジナリティー」というイベントが行われた(Type Directors Club、AIGA NY共催)。
イベントの前半はゲストスピーカー4人の自己紹介とそれぞれのデザイン制作プロセスについての発表、後半は今回のイベントのテーマである「フォントデザインのオリジナリティーと今後のフォント業界について」をMonotype ImagingのTypeディレクターCharles氏がモデレーターとなって他のゲストに問いかける形式で行われた。
オリジナリティーがある作品とは「自分のインサイトを使って作られたもの」
フォントだけではなく、デザイン制作ににおけるオリジナリティーとはという質問に対し、ゲストスピーカーからは「自分のインサイトを使って作られたもの」、「プロジェクトの他にはないポイントを発見し表現されたもの」なのではないかという意見が挙がった。
Pentagram グラフィックデザイナーNaomi Abel氏:
すでに長い歴史のあるフォント業界において「誰もこれまでに見たことのない、唯一無二のもの」を作り出すのは難しい。私はそれよりも表現する媒体(ストリートの電子広告なのか、モバイルスクリーンなのか、など)を考えながら、プロジェクトごとに変わる「メッセージ」が自分の作ったタイプデザインを通じて具現化されることを目標としている。自分の視点で調べた情報と直感を使って作り出した作品は「オリジナリティー」のあるデザインと言えるのではないか。
Original Champion of Design 共同創業者 Jennifer Klnon氏:
私はクライアントとデザインを制作するプロセスにおいて「コミュニケーション」を最も大切にしている。クライアントとのコミュニケーションを通じてそのユニークネスを捉え、そのポイントがデザインを通じて伝わる作品は「オリジナリティー」のある作品だと考えている。
デザイナーが悩む「オリジナリティーのある作品が作れたのだろうか」という問いは、誰が見てもこれまでに見たことがないものを作れたか、ではなく「自分の角度で捉えて表現されたものかどうか」で多くのプロたちは判断しているのだと感じた。
今後変化していくのは「伝達媒体の多様化」
今後のフォント業界はどのように変わっていくのかという質問に対し、ゲストスピーカーからは「様々な言語におけるフォントの多様化」「表現される媒体の多様化」という意見が挙がった。
Samarskaya&Partners クリエティブプラクティショナー Ksenya Samarasukaya氏:
今後この業界における大きな変化は、より多くの言語においてフォントが増えていくことだと思う。これは、webの普及によりこれまで以上に多くの地域でフォントがデザインの一部として使われてるようになったことも大きく関係していると思う。様々な言語において書体が増えていくことは、英語やラテン語などのフォントデザイナーたちにも大きな影響を与えていくと考えている。
Commercial Type 共同創業者 Christian Schwartz氏:
多様化する伝達手段にあわせ、フォントが開発されていくのではないか。「Helvetica Now」が登場した理由のように紙の世界からwebの世界に移行したことで、フォントの登場するシーンは多様化している。
今回のイベントでは、タイプデザイナーたちがをデザイン制作にあたって常に心がけていることについて議論が盛り上がった。それは紙の静止画から動画、平面から多面体へ、表現される媒体の技術が進歩してもデザイナーの使命である、「デザインを通じてメッセージを伝える」ということは変わらないからではないだろうか。今後登場する新しい表現媒体でのタイプデザインに注目したい。