2019年5月29日に開催された、パネルディスカッションイベント「ConversAAtions: Building a Design Practice」。このイベントは年に一度、ニューヨークのコミュニティーイベント「NYC×Design」の一部としてAsian American Arts Alliance(通称:4A)主催で開催された。アジア系アメリカ人デザイナーが、自身の経験と今後、若手デザイナーへのアドバイスを語った。今回はゲストスピーカーの一人であったをDong-Ping Wong氏への個別インタビューの模様もご紹介する。
デザインプロセスにおいて自分のルーツは気にしない
司会者からアジア系アメリカ人の家庭に生まれたからこそ直面した問題、また自分のバックグラウンドをデザイナーとして意識するか?と問いかけられると、自らのデザインプロセスにおいてルーツを意識することはないという意見が挙がった。
ファッションデザイナー Angel 氏:
私は小さい頃からデザイナーになりたいと言っていました。しかし、両親は私に医者になって欲しいと思っていたので、美大学を卒業してからもあまり肯定的ではありませんでした。そのため、デザイナーとして活動していくという私の決断に対し理解してもらうのにだいぶ時間がかかりました。私のファッションブランドは中国と密接に関わっていますが、「デザイン」については、自分自身がこれまで経験、学んできたことが強く反映されていると感じています。
アメリカではよくジョークになることだが、アジア系アメリカ人の家庭では医者や弁護士といった社会的地位や収入の高い職業を目指して欲しいという親が多い。
実際に彼らもデザイナーという職業を選択することに対し、程度の差こそあれど両親から肯定的な反応を得るのに時間を要したという。
デザイナーの道を選ぶ過程において、自分がアジア系アメリカ人だからこそ直面した問題はあったものの、これまで積み上げてきたものは自分だけのものであるという誇りを感じた。
デザイナーも一人のプロのビジネスパーソン
司会者からこれからの若手デザイナーたちへのアドバイスを問われると、プロのビジネスパーソンとしてクリエイティブ以外のスキルが求められることを覚えておいて欲しいという意見が挙がった。
グラフィックデザイナーSophia氏:
私自身、駆け出しのころはアーティストとしての意識が強く、クライアントからの要望を個人への批判と捉えてしまうことが多かった。しかしプロとして働く際は、クライアントの要望をそのように捉えず、頭を切り替えて対応できるスキルが必要だと思う。
デザイナーという職業もチーム、クライアントあって成り立つ仕事。アマチュアからプロへ移行する際には、プロのビジネスマンとしてのコミュニケーション能力が必要とされるようになることを覚えておいて欲しいというメッセージが伝わってきた。
Dong-Ping Wongインタビュー
今回はゲストスピーカーの一人であった、Dong-Ping Wong氏に作品制作の背景やデザインコンセプトなどを伺った。彼は現在ニューヨークで自分の建築デザイン事務所Food New Yorkを構え、そこに住む人々が培ってきた文化、景観、その背景にある様々な要素を考慮することをモットーに世界各国のプロジェクトを手がけている。彼がOana Stanescu氏とともにFamilyというデザインスタジオを2010年に立ち上げたと同時に携わったプロジェクト、+Pool(ビデオ詳細)は「もっとニューヨーカーが気軽に訪れることができる公共スペースを増やそう」というメッセージのもと、多くの人の共感をうみ、話題となった。昨今では事務所があるチャイナタウンを中心にローカルプロジェクトにも積極的に取り組んでいる。
+POOLプロジェクト
自然がもっと身近にあった、CAでの経験は無意識のうちに作品制作に影響を与えているかもしれない
初めてのプロジェクトは香港の小さなお店の設計でした。 イメージにないかもしれませんが、香港はとても自然豊かな南国の国です。ただ、都市部はいつも人が溢れかえり、忙しい街のため自然が感じられません。そこで、お店の入り口付近に自然をイメージさせる緑を設置しデザインを通じて「南国、香港」を再現しました。これは自分がカルフォルニアという、自然がもっと身近にある環境で育ったことが影響しているかもしれません。ただ特に意識したことはないので、このプロジェクトを含め、単に自然が好きだからという理由で自然をデザインに取り入れているのかもしれません。
僕らが他社と違うのはクライアント、チームとの「コミュニケーション」
かつては建築家は建築家のために仕事をしていました。一方、今はSNSやネットが普及したことで建築家は直接クライアントと対話できるようになり、一緒にデザインをしていくことが可能になりました。この変化と同時に、建築家は業界の専門知識がない人にも伝わる表現でアイディアを説明する必要が出てきました。私たちは手書きのイメージをクライアントの目の前で作ったり、何通りもの表現で自分たちのイメージを伝えられるように工夫しています。ここが私たちと他のデザインスタジオと違うところであり、新しい世代だからこそ取り入れている観点かもしれません。
ニューヨークの街にもっと気軽に市民が出かけられる公共のスポットを
僕がニューヨークの街に対して感じたことは、自然があって市民が気軽に出かけられる空間がとても少ないということでした。これまでFoodとしては世界各国のプロジェクトを多く手がけてきました。そこでこれからはもっと自分たちのホームタウン、特に事務所のあるチャイナタウン周辺の公共スペースプロジェクトにも携わっていきたいと考えています。これまでに二つのプロジェクトを立ち上げており、今後も積極的に携わっていきたいと考えています。
イベント概要
イベント: | ConversAAtions: Building a Design Practice |
日時: | 2019年5月29日 |
場所: | Asian American Arts Alliance 本社 |
ゲストスピーカー: |
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