クッキーカッターハウスをミニマルで静謐な空間の住宅へと再生したリノベーションプロジェクト
トロントを拠点とするデザイン事務所Atelier SUNが設計した、住宅のリノベーションプロジェクト「ハーティハウス」は、トロントの東に位置する郊外の町、エイジャックスにある。クッキーで切ったような大量生産の同じ家、「クッキーカッターハウス」が並ぶ地域に建つ住宅が、ミニマルで落ち着いた雰囲気の独特な住空間へと変身した。
大量生産の全盛期である1980年代に開発されたエイジャックスの町。その中で建てられたこの家には、柱や梁などの構造要素が過剰に存在していた。
この現場は、チャレンジングな課題で溢れていました。1階の850㎡の床の中央に、7本の柱が浮かんでいるのを見たときは驚きました。我々は、既存の乱雑な構造要素を機能的かつ審美的なデザインに落とし込みながら最小限に抑え、ミニマルで快適な生活空間を創ることに成功しました。
-Atelier SUN 創設者、アンドリュー・サン
玄関を入ってすぐのホワイエには、ベンチシート、シューズラック、クローゼットが一体化したウェルカムヌックが木のパネルで囲われ、居心地の良い雰囲気を作り出している。ホワイエのすぐ先、造作家具の延長線上にはフローティング階段が2階と地下階へと伸びている。ウッドパネルの階段壁は、階段の構造を支えるプライバシーパネルとして機能するだけでなく、階段に落ちる美しい影をとらえるキャンバスにもなっている。
リビングエリアの中央にある梁と柱は木材で包み込まれ、上部や中央部分にはブロンズ色のアクセントディテールが施されている。彫刻的な作品として空間に佇むこの柱や梁のお陰で、既存の耐力壁を取り払うことが可能となり、オープンなフロアプランが実現している。このオープンなフロアプランの片側にはリビングルームとワークスペースが配置されている。壁面には収納、ディスプレイ、フリップダウンテーブルを一体化した木製のインテリア家具が造作されている。反対側には、ウッドパネルに包まれたキッチンとダイニングエリアがある。木製のポケットドアは、隠しパントリー、ドッグシャワー、そしてガレージへ続く独立した入り口へとつながっている。
2階にはベッドルームが4つ、バスルームが3つ配置され、ウォークインクローゼットやサンルームなども設置。居心地のよい住空間でありながら、もてなしの心も大切にした穏やかな空間となっている。自然素材にこだわり、繊細なディテールにまで配慮した空間には、精巧な職人技が光る。オーナーに落ち着きと安らぎのあるライフスタイルを再提案する、意義あるリノベーションプロジェクトとなった。
Atelier SUNについて
カナダのトロントに位置するAtelier SUNは、2019年にアンドリュー・アンによって設立された、インテリア建築とインテリアデザインに特化した複合的なデザインスタジオ。すべてのプロジェクトにおいて、地域の文化、機能性、美学と強いつながりを持つ空間の本質的な意味を発見することを目指している。2008年にオンタリオ美術大学を卒業、Association of Registered Interior Designに登録されたインテリアデザイナーであるアンドリューは、15年にわたり、ホスピタリティ、リテール、住宅分野のクライアントを対象に様々なプロジェクトに取組んできた。その経験を活かし、今もなお、空間構成、素材、そして美学を追求し続けている。
ARIDO 2015メリット賞の受賞や、Canadian interior magazineによる2016 Best of Canada in residentialへの認定など多数の栄誉に輝いている。また、Atelier SUNは、Azure Magazineによるカナダ150のTop 30 Emerging Interior Design firmとして認定されている。