ミラノサローネ2021でのエルメスとディオールのレビュー
イタリアのミラノで開催されたミラノサローネ2021に訪れることが出来た。建築旅行をよくしていた私も、コロナ禍にため約2年ぶりの飛行機を使っての旅行となった。ドイツからイタリアに入国するに際し、マスクの着用、ワクチンパスポート、宣誓書などの所持も義務付けられ、いつにも増して緊張感のあるフライトであった。
ミラノサローネ(Salone Internazionale del Mobile di Milano)はイタリアのミラノで毎年開催される国際家具見本市である。第二次世界大戦後の復興による家具需要から始まった見本市で、現在は世界最大の家具・デザイン展示会となっている。本来は毎年4月に開催されるのであるが、2020年はコロナ禍により中止され、2021年は9月の開催であった。
ミラノ在住の友人によると、コロナ禍のため従来の半分ほどの規模であるが、開催してくれただけで有難いとのことであった。時間の関係で全てを訪れることはできなかったが、特に印象に残った2つのブランドの展示を紹介する。
エルメス(Hermès)は、「物質性と質感を表現すること、職人の手を感じること、幾何学模様を描くことによって建築スケールでグラフィズムを表現することが重要である」というコンセプトのもと、5つのカラフルな模様の家とその中に家具などを展示していた。
屋内にはインテリアデザイナーCharlotte Macaux Perelmanによって設計された、幾何学的なカラフルな5つの「家」がオレンジ色の砂の上に建っていた。5 x 10 x 7mの「家」は土、石灰、石膏で覆われ、ミラノのスカラ座の職人によって手作業で描かれたとのこと。
中にはエルメスによる家具、テキスタイル、磁器、オブジェクトが展示されていた。建物の手作業によるカラフルな模様は陳列されたエルメスの製品とよく調和していた。
スタジオ・ムンバイによって設計された、有機的な形状のプロポーションの椅子。木製のフレームが、セルロースマイクロファイバーのブレンド素材によって覆われている。革新的な素材と伝統との調和の取れた椅子は、手塗りにより素材との親密な関係をつくりだしている。壁に配置されたテキスタイルや革製品も、建物の模様と調和しながら展示されていた。
ディオール(Dior)は17名のアーティストを招聘し、クリスチャン・ディオールが愛した椅子「メダリオンチェア(DIOR MEDALLION CHAIR)」の再解釈を依頼した(ATANG TSHIKARE、CONSTANCE GUISSET、DIMORESTUDIO、INDIA MAHDAVI、JINYEONG YEON、JOY DE ROHAN CHABOT、KHALED EL MAYS、LINDE FREYA TANGELDER、MA YANSONG、MARTINO GAMPER、NACHO CARBONELL、NENDO、PIERRE CHARPIN、PIERRE YOVANOVITCH、SAM BARON、SEUNGJIN YANG、TOKUJIN YOSHIOKA)。日本からはNENDO、吉岡徳仁らが参加した。
イランとエジプトにルーツを持つフランス人建築家兼デザイナーであるINDIA MAHDAVIは、5脚の椅子により「ポリクロームとポリグロット (多色と多国語)」という2つの要素で「それぞれの個性を失うことなく集結した部族」を形成したとのこと。
多岐にわたる分野を手掛けるDIMORESTUDIOは、オリジナルをいくつかのパーツに分解、脱構築したうえで新しく組み立てた。ブロンズと真鍮でつなぎ合わせ、金箔の漆喰や多彩なディテールで装飾し、手作業で再構築した。
MAD ArchitectsのMA YANSONGはクリスチャン・ディオールの「時代を常に先取りする」という言葉を内包し、美意識に動きを与えた椅子を3Dプリントとポリウレタンで製作した。
吉岡徳仁は、自身のシグネチャーである364個の透明な樹脂のプレートをランダムに積層し、レトロフューチャリスティックな椅子「Medallion of Light」をデザインした。
NENDOはバックレスト・シート・脚が一体化した、厚さ3.0mmの薄い強化ガラス板を半円形に成形した椅子「Chaise Medaillon 3.0」を制作した。
ミラノサローネ2021で知り合った日本人の展示者たちは、日本に帰国後は2週間の自主隔離が必要となり、その上での参加とのことだった。そのためか、ミラノでは日本からの観光客の姿はほとんど見かけなかった。そういう意味では今年訪れられたことはとても貴重な経験となった。
私は初めてミラノサローネに訪れたのだが、デザイナーたちがデザインの新しい方向性を探りながら「アート」をしているような感覚を味わえた。デザインとアートの違い・境界を考えさせられる良い経験であった。
現在、現代アーティストと共に建築士としてアートの設計・制作に携わっている自分としては、ミラノサローネに展示された家具・プロダクトはとても親近感の湧く展示たちであった。今年はコロナ禍で規模が小さかったとはいえ、また来年も訪れようと思えるものばかりであった。
次のミラノサローネ2022は4月を予定しているようである。コロナ禍が落ち着いていたら、ぜひ訪れてほしい。