詩人建築家である立原道造の創作活動を詩と建築設計の双方から浮かび上がらせる
大阪大学出版会より、岡本紀子著による『立原道造 風景の建築』が2021年4月26日に刊行された。詩人であり建築家の立原道造は、「住宅・エッセイ」(1936年)において、人生をひとつの中空のボールになぞらえ、「住宅する精神は、ボールの表面を包み、エッセイする精神は、中空のボールの内部の凹状空間の表面を包まうとする」と述べた。立原の身体を通して、建築と文学を同時に作動させながら生きた精神がそこにある。本書は、詩人建築家である立原道造の創作活動を、詩と建築設計の双方から浮かび上がらせる。卒業設計としての浅間山麓の芸術家村構想、浦和の別所沼を立地とした週末住居《ヒアシンスハウス》のスケッチや図面の変容過程を分析し、それらに内在する詩的世界を考察。1930年代の潮流としてのモダニズム建築とその設計思考を受容しながら、土地の来歴や人間の生の営みにも意識を向けてきた立原の建築的思索を探究する。
モダニズム建築の豊穣な可能性
詩人は謳う、言の葉が織りなす幻想の空間を。建築家は造形する、ゲニウス・ロキ(地霊)との豊かな対話の律動を──
風を愛した夭折の詩人建築家・立原道造は、その清冽な短い生涯のなかで、まさに時空を自在に舞う一陣の涼風のごとく、詩文に、絵画に、そして空間造形に、己の建築幻想のありったけを結晶化した。その透徹した魂にとって、廃墟の孤影は再生への希望でもあり、アンビルトを運命づけられた図匠は、未来の生活の記憶でもありえた。立原の初期の創作から、大学以降の詩作と設計活動にいたるまで、その芸術的感性と生の刹那的な共振を、緻密な考証と大胆な仮説によって鮮やかに描き切った、分野横断的な好著。桑木野幸司(大阪大学大学院文学研究科教授)帯文より
岡本紀子プロフィール
神戸市生まれ。大阪大学大学院文学研究科修士課程文化動態論専攻修了。2014年より立原道造の詩と建築を研究。主な論文・エッセイに、「立原道造:時を告げる建築―「図書館」設計図にみる建築思考と詩的世界―」『待兼山論叢』第52号文化動態論篇(2018)、「詩のなかの建築―立原道造の詩にみる建築の風景」『Arts and Media vol. 07』(2017)、「一九三六年:立原道造の京都散策―京都近代建築への関心とその影響」『Arts and Media vol. 06』(2016)、「ふたつの《麦藁帽子》―立原道造と堀辰雄」『Arts and Media vol. 05』(2015)など。