シドニー中心部の大規模再開発プロジェクト「ブルックフィールド・プレース・シドニー」

交通機関、商業施設、オフィスビル、歴史建築など様々な施設が関わる複合的な大規模再開発プロジェクト「ブルックフィールド・プレース・シドニー」は、ウィンヤード駅周辺をシドニーの新たな市街地へと変身させた。75,000㎡の敷地には、ブルーチップがテナントに名を連ね、シドニー中心地にふさわしい多種多様なリテールが入り、そして交通量の多いウィンヤード駅の玄関口ともなる。デザインは、世界的な建築デザイン事務所のメイク・アーキテクツが手掛けた。

adf-web-magazine-brookfield-place-sydney-8

Photo credit: Brett Boardman

本プロジェクトでは、旧メンジーズ・ホテル、旧タクラル・ハウス、シェル・ハウス、そしてベネフィシャル・ハウスの4つの独立した建物を統合し、地下鉄ウィンヤード駅の連絡ホールから繋がる新たな建造物として生き返らせた。以前のウィンヤード駅から市街地への連絡通路は、暗くて閉鎖的だった。そこで、メイク・アーキテクツは、ゴシック建築に見られる控え壁の要領で、中心部分を境界壁に作った巨大な柱で支え、連絡ホールを持ち上げて浮かせることに成功した。3階建ほどの天井高のホールが陽の光で満たされ、駅の利用者に明るく開放的な空間を提供する。シドニー中心部の最も忙しい交通ハブに見合った、新たな玄関口が完成している。

adf-web-magazine-brookfield-place-sydney-10

Photo credit: Brett Boardman

さらに2ブロック先にあるジョージ・ストリートからウィンヤード駅前のカリントン・ストリート、そしてウィンヤード・パークを繋ぐ25m幅の広々とした歩行者用通路も、オフィス下を通過するように新設された。アーモンドゴールド色のステンレススチールが上部から垂れ下がり、ガラス繊維補強コンクリート(GRC)で覆われた天井とのコントラストで、入り口を更に際立たせている。リテールショップが並ぶ入り口階からエスカレーターで下へ降りると、フードコンコース、そして交通ハブへと通じている。

adf-web-magazine-brookfield-place-sydney-2

Photo credit: Brett Boardman

カリントン・ストリート沿いの建物部分には、商業テナントが入る。交通量の多いジョージ・ストリートとは趣が異なり、公園に面した静かでバイオフィリックなロケーションを堪能できるよう、高いガラス張りのファサードとなっている。また、1920年代に大企業の本社が建ち並んでいた古き良き時代への回帰を望む雰囲気も漂っている。建物の内部には、ひと続きの大きな大理石に見えるようにつなぎ目を慎重に加工したカラカッタマーブルが床や壁面に施され、細部にも品質へのこだわりが詰まっている。

adf-web-magazine-brookfield-place-sydney-3

Photo credit: Brett Boardman

いくつもの建造物が関わる本プロジェクトでは、ブロック内の建物の高低差から生まれる空間が特徴的である。中央の最も高い133mのビルが全体的なボリュームに高さを与える一方で、他の2棟の低いビルが全体のボリューム感を抑える働きをしている。高さで存在感を示しながらも、あらゆる方向からの視界を妨げず充分な採光ができるように工夫をしているのである。また、高低差で生まれる段違いの空間には、6つのルーフテラスと1,700㎡のアウトドアスペース、280㎡のグリーンルーフが作られている。

adf-web-magazine-brookfield-place-sydney-1

Photo credit: Brett Boardman

10階建てのシェル・ハウスは、建物の歴史的象徴である400トンの時計塔も含めて全面的に改装され、屋上にはレストランとバーが新設された。3,000枚以上あった砂岩色のファイアンス・タイルは、職人による手作業で丁寧に作られた新しいタイルに貼り替えられた。建物の南側部分は修復され、建物内の10階分の高さの吹き抜けを通って、新しい商業ビルと繋がっている。これにより、シドニー最大の3,200㎡の床面積が実現したのである。内部が繋がって一つの大きな空間になる一方で、外観は新旧の建物が空間を分割し、それぞれの存在感を保っている。

adf-web-magazine-brookfield-place-sydney-9

Photo credit: Brett Boardman

オフィススペースには、ブルックフィールド・プロパティーズ・アジアをはじめ、ナショナル・オーストラリア銀行、金融グループ「アリアンツ」やコワーキングスペースの大手「Hub Australia」など、世界有数の大手企業がテナントに入ることが決まっている。

adf-web-magazine-brookfield-place-sydney-11

Photo credit: Brett Boardman

オフィスタワーには、高水準のワークスペースが用意され、シームレスなレイアウトに、高機能なアメニティが完備されている。ファサードのブラインドは、光量によって自動で開閉する仕組み。空調は、張り巡らされたチルドビームシステム(天井に設置された配管に冷水を通して空気を冷却し、その空気を対流によって下降させて室内を冷却する装置)で快適に保たれる、サステナブルな設計である。また、450台を収容する自転車置き場やロッカー、シャワーなどを完備することで、自転車や徒歩の通勤をサポートしている。人流を考えた交通ハブとしての機能だけでなく、ウェルネスを意識したリテールやアメニティ、24時間のセキュリティシステムなど、ハイレベルのサステナブル要素を盛り込んだ、魅力的な空間がここにはある。

adf-web-magazine-brookfield-place-sydney-12

Photo credit: Brett Boardman

メイク・アーキテクツについて

メイク・アーキテクツは、2004年、建築家のケン・シャトルワースによって創設された建築事務所。ロンドン中心部のシティ・オブ・ロンドン・インフォメーション・センター、55ベーカー・ストリートのオフィス開発、グローブナー・ウォーターサイドを含む数々の受賞歴のある建物を手掛けている。「世界で最高の場所、空間、建物をデザインする」をモットーに、ロンドン、香港、シドニーを拠点に150人のチームで、建築、インテリア、都市デザインの構想から完成までを行っている。