禅的思想と禁欲性、そして「空(くう)」の力によって形づくられた内省的な住まい

メキシコの設計事務所・HW Studioの創業者が極めて個人的な住宅を完成させた。本プロジェクトは住宅空間の根本的なあり方を問い直すものであり、形態や視覚的な表現を前面に出すのではなく、日本的な思想に根ざした「空(くう)」という概念にその中心を据えている。すなわち、家の本質は物理的な構造ではなく、その内部に内包される余白にこそ宿るという考えである。

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Photo credit: Cesar Bejar

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日本の思想家、岡倉天心の著書『茶の本』の中の言葉「空はすべてを内包し得るがゆえに絶対的な力を持つ」に着想を得て、この住宅は「何か」ではなく「無」を中心に据えて構想されている。その核となるのは、石庭という空虚で瞑想的な空間であり、住まい全体はこの不在の中心によって秩序づけられている。この内向的な構成は、住宅を展示の場ではなく、思索の器として位置づける点で、従来の住宅設計とは一線を画している。

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Photo credit: Gustavo Quiroz

このプロジェクトはまた、建築家自身の内省のプロセスでもあった。これまで他者の理想を形にしてきた彼にとって、自邸の設計は、自らの信念と実際の生き方をいかに一致させるかという問いに直面する機会となった。限られた予算は、美的判断よりも必然性を優先させる要因となり、すべての要素は経済的にも空間的にも明確な理由を求められた。

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外観は簡素で匿名的な箱に近い。都市の中に静かに佇む閉じた塊のようである。しかし内部に入ると、その印象は大きく変わる。この建築は空間を閉じるのではなく、むしろ繊細な何かを包み込む容器として機能している。京都の寺院に着想を得た中央の石庭は、歩くためのものではなく、視覚的・感覚的に体験されるためのものである。石は何かを象徴するのではなく、感情や気配を喚起するよう慎重に配置されている。

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灰色の砂利の上には、二つの木製プラットフォームが浮かぶ。それらは床ではなく、「間」として機能し、立ち止まり、思索するための場所となる。この中心の空間を軸に、諸室は静けさの周囲を巡るように配置されている。

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一方には吹き抜けのあるキッチンとダイニングがあり、その上部には火の煙を集めるための空間が設けられている。これは単なるノスタルジーではなく、将来的に都市インフラが機能しなくなる可能性も視野に入れた設計である。反対側にはリビングルームがあり、そこでは大きな石が静かな風景の中の島のように配置され、瞑想的な環境をつくり出している。

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この住宅では、内部動線の連続性はあえて断たれている。主要な空間の間には屋根付きの通路がなく、移動には一度外部に出る必要がある。雨の日には濡れるか、止むのを待つしかない。この選択は、自然から身を守るのではなく、自然と共存するという姿勢を示している。

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素材の選択も同様の思想に基づく。和紙の障子は、内外を隔てる繊細なフィルターとして機能し、光を柔らかく時間的なものへと変換する。ここでは影は光の欠如ではなく、その延長として捉えられている。

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上階の寝室はミニマルで親密な空間であり、円形の窓が庭の中央に植えられた木を切り取る。この開口は外を見るためのものというより、内面へと意識を向ける装置として機能する。

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Photo credit: Gustavo Quiroz

全体の構成は極めて禁欲的である。ガラスの使用は最小限に抑えられ、三つの小さな窓のみが山、隣の松、中央の木という限定された風景に開かれている。それ以外は内向的に閉じられ、空間はまるで音を内に響かせる共鳴体のようである。

エントランスもまた特徴的である。通常のように上がるのではなく、下ることで内部へと導かれる。この動きは、聖なるものに対して頭を垂れる所作に似ていると同時に、地盤の安定した位置に建設することでコストを抑える合理的な判断でもある。しかしそこには、空間に入る者に謙虚さを求める象徴的な意味も込められている。

本住宅には、日本的美意識——不完全さ、未完性、そして無常の価値——が色濃く反映されている。誇張された表現や視覚的な派手さは排され、静かに持続することが重視されている。

この家は人を驚かせるためのものではない。むしろ、節度ある生活を支え、自己と環境に対する意識を研ぎ澄ますための器である。空虚と抑制を受け入れることで、この建築は「誠実な生」を体現している。

HW Studio

ロヘリオ・バジェホ・ボレスが設立したメキシコ・モレリアを拠点とする建築設計事務所。スタジオは「静けさ」と「注意深い存在」を出発点とし、穏やかさや内省、そして世界とのより深い関わり方を促す空間の創出を目指している。

象徴的でアイコニックな表現を追求するのではなく、HW Studioは「すでにそこにあるもの」を顕在化させることに重きを置く。すなわち、敷地がもつ静かな尊厳、素材の重み、光と影のリズム、そしてそこに住まう人々の記憶や感受性である。それぞれのプロジェクトは、土地と住み手、そしてその出会いに形を与える建築家との対話として捉えられる。

少数精鋭のチームで活動する同スタジオは、年間に引き受けるプロジェクト数を意図的に限定している。それにより、各住宅や空間が時間をかけて丁寧に育まれ、意図と誠実さをもって実現されることを可能にしている。その成果は、出版物や展覧会、各種アワードを通じて国際的に評価されており、建築を「存在」「感情」「本質的な美」の体験として捉える広範な議論の一端を担っている。