「カメラを託されて、心が死んでいた生活の中に、生きる目的が生まれたんです」
クラウドファンディングで506人から600万円以上の支援を集めた話題のプロジェクトがついに完成し、Homedoor(ホームドア)から写真集『アイム Snapshots taken by homeless people.』が2022年4月28日(木)に発売された。写真集『アイム Snapshots taken by homeless people.』は日本ではじめてホームレスの人たちが自分たちの街を撮影した写真集となっている。
発起人は12歳で釜ヶ崎を初めて訪れてホームレス問題を知り、2010年からホームレス支援を行う大阪のHomedoor事務局長の松本浩美。2017年からホームレス状態の人たちにフィルムカメラを渡し、日常を撮影してもらうという活動を続けてきた。写真集の売上はHomedoorによるホームレス状態の人たちへの支援活動に充てられる。
カメラマンは年齢も性別も状況もさまざまなホームレス状態の人たち
- 河川敷で10年以上暮らす元建設業の男性
- ネカフェ(インターネットカフェ)を転々とする元ホストの男性
- 教会に通う元引きこもりの女性
それぞれの視点で切り取った日常の風景には独自の世界が広がる。いつもの川沿いのベンチから見る朝焼け、夜の公園、隣人の昼寝。レンズを通してのぞいた視点がそのままそこにあり、撮影された写真にはしばしばストーリーが存在する。たとえば「なぜこの写真を撮ったのか?」と質問すると、むかし自分が大工として働いていた頃に建てたビルだったり、よく休憩をする公園に置いてあるオブジェだったり。といった具合だ。1枚の写真から背景にある思いもよらぬストーリーが浮かび上がり、巻末にはその詳細が垣間見れる1人ひとりへのインタビューが収録されている。
美術館。子どものあれで、懐かしいなと思って。幼稚園のとき先生に「うまく描けましたから二科展に出したら優勝したんです。子どもさんと同行してください」って言われて。新聞に名前載ってね。ここで表彰式やったの。この階段で、家族で、写真撮って。
別に僕が三脚を立ててカシャカシャ撮ったんじゃなくて、バスに乗って撮ったんですよ。ここで撮りたいなっていうポイントではあったんですけど尾崎豊の 「十七歳の地図SEVENTEEN'S MAP」を意識して撮りました。歩道橋が歌詞の中に出てくるんですよね。
スズメがね、6月梅雨時期はパンをやるんですよ。ちょうど子スズメが生まれる時期なんで。やる前はね、何羽か死によったんです、梅雨の時期に。それで夕方やるようになって。夕方になると集まってきよるんです。
ホームレスという1つの人格はない
「ホームレス」は状態を指し、人に対して使う言葉ではないため本書ではホームレス状態にある人もしくはカギカッコつきの「ホームレス」と表記を統一している。写真集のタイトル「アイム(I am)」は、「わたしは〜である」という意味。「この場所を撮ろう」「今この瞬間を撮りたい」と一人ひとりの方々が意思を持ってつくってくれたものが、この写真集。タイトルには「ホームレスという1つの人格はない」というメッセージを込められている。撮影者ごとにページブロックが分かれているこの写真集の特徴を示した言葉にもなっている。
カメラを託されて生きる目的が生まれた
路上での生活って、心が死んでいくんです。1日がね、違った意味で『時間との戦い』なんです。 早く日が暮れてくれへんかなーって。 路上で生活してることを恥ずかしいと思っていたし、人目も気にしていた。でもカメラを託されて、心が死んでいた生活の中に、生きる目的が生まれたんです
このプロジェクトの核は、ホームレス問題について「まず、知ってもらいたい」ということにある。ホームレス問題はほかの社会課題に比べ「ホームレスになるのは自分の責任だ」と思われ、支援金が集まりにくいという傾向がある。しかし、ホームレス状態に陥るきっかけは突然の病や失業、介護離職による困窮、人間関係の悪化など誰にでも起こりうる出来事がほとんど。写真集を通して多くの人がホームレス状態にある人たちの視点や声に触れるきっかけをつくることで、新たな理解を促し「誤解と偏見」を解消する機会をつくりたいと切なる願いが込められる。そして本の売上はHomedoorから、ホームレス状態の人たちへの支援に役立てられる。
『アイム Snapshots taken by homeless people.』概要
編集・発行 | Homedoor |
発売日 | 2022年4月28日(木) |
定価 | 2,100円 |