レジリエンスと「間(ま)」の思想が導く文化施設の再構築
Moreau Kusunoki建築の楠浩子とニコラ・モロー、そしてMAAS(ニューサウスウェールズ州応用芸術科学博物館)最高責任者のリサ・ハビラが2025年4月に東京で開催される国際ミュージアム建設会議「IMCC(International Museum Construction Congress)」に登壇する。今回のセッション「From First Generation to Re-Generation (of Museums)(第一世代から再生成へ)」では、文化施設の設計およびプログラムの柔軟性とレジリエンスが未来の世代にとっていかに重要であるかが議論される。
本セッションの中心となるのは、オーストラリア・シドニー西部で建設中の「Powerhouse Parramatta」。世界でも最も重要なミュージアムプロジェクトの一つとして注目されており、Moreau Kusunokiによる建築コンセプトが大きな話題を集めている。彼らは日本的な「間(ま)」の哲学を設計の核に据え、構造と構造のあいだに生まれる流動的な空間が人間の交流や意味の創出を可能にするという思想を反映させている。
この空間構成は訪れる人々による自由な使われ方を促し、身体的体験を重視しつつ将来的な変化への対応力を備えている。Moreau Kusunokiは次のように語っている。「新しいPowerhouse Parramattaでは、ミュージアムという概念そのものに問いを投げかけ、ユーザーと時間によって進化し続ける無限の可能性を持つプラットフォームを目指した。西シドニーおよび世界にとっての新たな目的地を創出し動的な機能と効率的なプログラムによって、訪れるたびに新しい知的・感情的体験が得られる場所を構想した。公共空間を中心に据え、ユーザーのニーズと欲求に応えることで、美しさを持続させる首尾一貫したレジリエントな建築を実現している。」

Centre Pompidou 2030, Paris France - A renovation project led by Moreau Kusunoki in association with Frida Escobedo Studio
Powerhouse Parramatta
2019年にMAASとニューサウスウェールズ州が主催した国際設計コンペにおいて、74チーム・529事務所の中から満場一致で最優秀に選出された。本プロジェクトは、Genton(シドニーのローカルアーキテクト)、Arup(構造・設備・ファサード・音響・サステナビリティ)、McGregor Coxall(ランドスケープ)、佐藤淳構造設計事務所(エクソスケルトン構想)、DEP(可動構造)、L’Observatoire International(建築照明)といった国際的なチームとの協働によって推進されている。
Moreau Kusunoki
楠浩子とニコラ・モローによって2011年にパリで設立された建築設計事務所である。日本の繊細な空間感覚と西洋的な都市思想を融合させた設計アプローチを特徴とし、その二重性はあらゆるプロジェクトに現れている。彼らの建築は理性と直感のあいだを行き来しながら、「間(ま)」と呼ばれる定義されない空間を生み出す。それは、ユーザーの関わりによって新たな意味や個人的な体験が形成される余白として機能する。グッゲンハイム・ヘルシンキ、パリ政治学院(Sciences Po)の新キャンパス、ブレストの国立灯台博物館、そして本プロジェクトであるPowerhouse Parramattaなど、国内外のコンペで数多くの受賞実績を持つ。2024年には、パリのポンピドゥー・センターの文化的改修プロジェクトを主導する建築家に選ばれており、完成は2030年を予定している。