オランダのウォータータウンに建設予定の美術館の試作パビリオン

オランダのソイデル海干拓地に造成された都市「アルメレ」は、1976年に最初の住居が竣工されたのを皮切りに発展し、今では人口22万人を抱える、国内で5番目に大きな街に成長している。ところが、その成長とは裏腹に、街にふさわしい美術館がないのが目下の課題であり、地方政府だけでなく国家政府も、新しい美術館の建設を最優先事項としてリストアップしている。街のアピールポイントとなる美術館は、すぐに建設するのではなく、没入型アートの展示をする期間限定のパビリオンを建設し、新しいアイデアを放出して実践する場として数年間実験的に活用してみることとなった。Museumの頭文字を取って「M.」と名付けられた新しいパビリオンは、オランダの国際園芸博覧会「フロリアードエキスポ2022」にてお披露目された。かつて海だったアルメレの歴史とリンクしたデザインのパビリオンは、若手のデザインデュオ、スタジオ・オッシディアーナが設計を担当している。

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Aerial overview of the pavilion of M., Photo credit: Riccardo de Vecchi for M.

開拓精神を尊重したデザイン

2020年代初頭、アルメレ自治体とフレヴォラント州政府は、パビリオンのデザインに、建築やビジュアルアートの分野で活動する5組の新進気鋭アーティストを抜擢した。そもそもアルメレは、大学を卒業したばかりの都市計画家が主体のシンクタンクのアイデアによって生まれた街であり、美術館のデザインにも、デザインした建築物が存在しない若手のアーティストをあえて選んだのである。専門家で構成された選考委員によって満場一致で選ばれたのが、コンセプトの良さと実現性の高さが評価されたスタジオ・オッシディアーナのデザインだった。スタジオ・オッシディアーナのアレッサンドラ・コヴィニとジオヴァンニ・ベロッティは、実験と革新を追求するアルメレの伝統に言及しながら様々な感性に語りかけるプランを提案した。その結果完成したパビリオンは、周囲の環境に自然と溶け込むランドアートの延長であり、「M.」のコレクションの一つとしてふさわしい作品となった。

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Aerial overview of the pavilion of M., Photo credit: Riccardo de Vecchi for M.

パビリオンの概要

スタジオ・オッシディアーナは、フレヴォラントのかつての姿、ゾイデル海、そして今はウィアウォーターとなってパビリオンが浮かぶ場所となっている水辺にインスパイアされたデザインを提案した。デザインは、3つの円「ポート」「ステージ」「展望台」で構成されている。「ポート」は、来場者が屋外活動を行える遊歩道となっており、フレヴォラントの土地から獲った貝殻や粘土、炭などからできたカスタムメイドの人造石を使用している。「ステージ」は、水に浮かぶ島で、強い風が吹くと揺れ動く構造。「展望台」は3つ目の円形のプラットフォームに構築され、中には2つの展示スペースがある。ファサードには軽量のポリカーボネートが円筒状に巻かれ、そこを通して水面や周囲の緑を反射した光がぼんやりと室内に入ってくる。外からは、屋内を移動する人の影がぼんやりと見える仕組みで、情景に芸術的な要素をプラスしている。

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Aerial overview of the pavilion of M., Photo credit: Riccardo de Vecchi for M.

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Detail of the terrazzo by Studio Ossidiana for M., Photo credit: Riccardo de Vecchi for M.

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Lobby of M.'s pavilion, Photo credit: Riccardo de Vecchi for M.

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M.'s pavilion by Studio Ossidiana, Photo credit: Riccardo de Vecchi for M.

没入型アートのための美術館「M.」

「M.」は、フレヴォラントとアルメレの新しいアイコンとなり、ひいては国内だけでなく国際的な美術館となるアルメレの新しい美術館の前身である。試作版の改良を続け、今後5年から10年の歳月をかけて完成される美術館は、アートへの知識のあるなしに関わらず、全ての人に開けた没入型アートとランドスケープアートの提供を目指している。訪れた人が、アートの世界に没入し、その一部となり、時には、その創造に参加することができる。これが目指す理想像である。現在展示中の「NaturAlly: Wild Futures」は、パビリオン初の展示。自然の未来を描いた5組の注目アーティストによる作品が展示されており、森の中をヒールで歩いたり、ピンクの水面下の世界を旅するジオラマや、機械が鳥の巣作りを手伝う様子を見たりと、様々な体験が用意されている。

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Exhibition room in M.'s pavilion with Dryad by MAISON the FAUX, Photo credit: Riccardo de Vecchi for M.

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Detail of artwork shown in NaturAlly: Wild Futures. Dryad by MAISON the FAUX, Photo credit: Riccardo de Vecchi for M.

M.は、美術館の外でも、アートに触れる機会を人々に提供している。アルメレの中心部では、2軒の空き店舗を没入アートのインスタレーションに改造し、来場者は緑で溢れたアルメレの未来を描いたり、地元アーティストによるアートが点在する迷路をさまよい歩き、アルメレの未来に思いをはせることができる。

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Digital diorama in NaturAlly: Wild Futures - on display in M., Photo credit: Riccardo de Vecchi for M.

研究のツールとしてのアート

若者だけでなくアートの知識がない層にも働きかけたい「M.」は、その研究のために、初等から高等教育における包括的な教育プログラムを編み出しており、現在実験が進められている。学生とかかわり、質問を投げかけることで、美術館の未来を形作るきっかけや動機は何なのかを模索している。アルメレの市街地にある池に一時的に設置された「Nieuw Flevo Peil」という彫刻は、フレヴォラントの住人の「鼓動」によって動かされている。住人に「何に心を揺さぶられるか?」という質問を投げかけ、その答えをもとに作られたアートワークが近い将来「M.」にも登場する予定だ。

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Nieuw Flevo Peil - a temporary interactive water sculpture by Meike Ziegler pulsating to the heartbeats of the inhabitants of the province of Flevoland, commissioned by M. and the province of Flevoland, Photo credit: Mothership/Vincent van Dordrecht

フロリアードエキスポ2022

10年に1度、オランダで開催される国際園芸博覧会。花とガーデン、緑地に関する全てを網羅した、世界でも有数の規模と歴史を誇るオランダの一大イベントである。「M.」のパビリオンは本イベントの中心部に位置している。エキスポ終了後、使用された用地は、「M.」を中心にしたサステナブルな住居郡「Hortus」へと改築される予定。


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