キプロスの港に楕円形のデザインが特徴的なクルーズ船ターミナルが誕生

このたびキプロスのリマソルに建設されたターミナルは、キプロスで初のクルーズ船専用のターミナルとなる。何年にもわたり、この地の産業の基本的なサービスを担ってきた倉庫に置き換わる形で建設された新ターミナルは、甲羅をイメージさせる7つの楕円形の建物が350mにわたって連なる特徴的なデザイン。新ターミナル建設の際のコンペで選ばれた、irwinkritiotiアーキテクチャによるデザインである。グローバルパンデミックによってクルーズ業界が予期せぬ停滞にみまわれる直前に完成した当ターミナルは、今年の夏に再開することで2021年期の営業を開始、地中海における運行の陣を敷いた。

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departure hall 7, Photo credit: Charis Solomou

新ターミナルは、多目的の施設が建つ交通量の多い、キプロスの主要な港内に位置している。島の貿易を司る輸送コンテナの主要入口であり、レバントへ向かう軍艦の停泊地や、東地中海を運行するクルーズ船のドックとしての機能もある。産業面において多様な用途を消化する当港において、クルーズ客につかの間の滞在で落ち着ける場所を提供しながらも、強い主張で存在感のあるターミナルが求められた。

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depature gate, Photo credit: Charis Solomou

キプロスに入航するとまず目に留まるのが、季節や時間によってその様相を変化させる、チタン亜鉛合金のターミナルの屋根である。連なる楕円の形は、クレーンや重量運搬船などがそびえる港でひときわ目立っている。下船した乗客は、壁や天井を木板で覆われた卵形のホールを抜ける。大きな窓からは水面に反射した陽の光が差し込み、磨かれた床にも反射して幻想的な空間を作っている。過去の造船文化をイメージした白木のインテリアは、うねのあるメタル外装の深い色とのコントラストを生む。ターミナル内に直接飛び込んでくる港の風景により、海と陸との境界線が曖昧になり、自然に繋がる。せわしい港でかつては見られなかった穏やかな情景を、クルーズ船を利用しない人々も楽しむことができる。

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Harbour view, Photo credit: Charis Solomou

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departure hall 6, Photo credit: Charis Solomou

当ターミナルでは今年、50万人の年間搭乗者数を見込んでいる。税関やセキュリティーチェックなど出入国に必要な手続きを行う場にありがちな、死角のある入り組んだ複雑なレイアウトを避けるため、見通しの良い設計デザインにしている。外の景色に開けたそれぞれのセクションに各機能を集約し、シンプルな作りにすることが建築家によって早い段階で決定されたことにより、案内のしやすい、簡潔なサービスが提供できる施設となった。

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Photo credit: Charis Solomou

さらに、デザインチームによって提案されたのは、オフシーズンにも活用できるターミナルスペースである。到着ロビーを、結婚式や会議、展示会など、地域の人々が利用できる多目的スペースとして活用することで、年間を通して施設を最大限に稼働することができる。屋上の「スカイバー」は、クルーズ客だけでなく旅行をしない客も利用できる。港を西に横断して建てられた多目的スペースを完備したターミナルは、港のダイナミックな活動とローカルの暮らしを繋げるプラットフォームとなるだろう。

キプロス・クルーズ・ターミナルは、アーキタイザーのA+アワード2021の輸送インテリアカテゴリーで、審査員特別賞を受賞している。

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Photo credit: Charis Solomou

irwinkritiotiアーキテクチャーについて

irwinkritioriアーキテクチャ(以下IKA)は、キプロスに1995年に開業した建築事務所。研究への強い熱意と、多様なプロジェクトチームとのコラボレーションにより、数々のアワードを受賞している。パンデミックにより建築業界が今までにない困難な状況に置かれた今、将来的に求められる環境要項を満たしながら、学び、適応し、進化する努力を怠らない。パートナーのマルガリータ・クリティオティ(Margarita Kritioti)とリチャード・ディコン・アーウィン(Richard Dickon Irwin)は、それぞれアメリカのMITとイギリスのケンブリッジで学んだ。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のバートレットスクール(建築環境学部)のスペース・シンタックス・プログラムで手を組んで以来、サステナビリティを追求するプロジェクトに携わっている。IKAは、ヴェネチアビエンナーレで作品を展示し、ミース・ファン・デル・ローエ賞にノミネートされている。