生態系と共に進化するサステイナブルなホテルが登場

Margot Krasojević Architectsが設計したホテルは、インド洋のオーストラリア特別地域の南に位置する。ここでは、生息する甲殻類の中でも主であり、生態系の維持に欠かせないヤドカリがプラスチック汚染によって減少しており、ココス諸島も含めた周囲の生態系への、海洋プラスチックの影響が大きな問題となっている。

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Photo credit: Margot Krasojević

サステイナビリティをデザインの設計基準に据えた海洋ホテルが主旨となった当プロジェクトは、土地の再生と再生エネルギーを第一に考えることで、今回の海洋プラスチックでできた人工島に辿り着いた。シュミレーションソフトウェアにより、海流を漂う大型海洋プラスチックの回遊や動線を把握。この、Margot Krasojević Architectsが開発したインフラにより、海洋プラスチック堆積濃度が最も高い領域を割り出すことが可能となる。そして、これらのゴミを回収し、最も効率的な方法で人工島を構築するために役立てることができる。当ホテルは、フィルターを通過したり、装置より回収したプラスチックによって構造が自己修復する、進化型のホテルをコンセプトとしている。これは、多様なゴミをかき集めて埋め立て地を造成したドイツのチームにインスパイアされたものである。

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Photo credit: Margot Krasojević

人工島は、海洋プラスチックを詰め込んだメッシュのバッグを繋ぎ合わせ、海底に固定させた”浮き”でできている。”浮き”の表面には砂を堆積させ、”浮き”を固定する役割を果たすマングローブの根が生息しやすい環境を整えている。マングローブは、堆積物を捕えることで防御壁となり、その根は水分を吸収して島の転覆や沈没を防ぐため、洪水防御の策として活用されてきた。オランダの埋め立てや2010年のプラゴミへのアプローチを参考に、プラスチックの居住可能な埋め立て地への活用や、それに必要な技術についての考察がなされた。

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Photo credit: Margot Krasojević

設計の特徴のひとつ、生分解性の細胞を播種された繊維補強コンクリートがひだ状に織り合わさりながら広がる”触角”のような構造。これは、嵐などで水面が急上昇した緊急時などに活躍する。水分を含むことで拡張・膨張し、沈殿物を囲い、人工的なバリアを形成する。原理的には、島を洪水から守る、人工のマングローブの根となっているのだ。水面が安定すれば、ソーラー電源のポンプを使って“触角”内の水を排出。水圧の上昇により膨張し、島の浮力を維持する仕組みだ。また、波の勢いを軽減し岸を波から守る防波堤の役割も果たしている。

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Photo credit: Margot Krasojević

ホテルには、区分けされた庇の付いた部屋とキャンプ場があり、シャワーには、ろ過と蒸留処理をされた海水がソーラー電源で送られている。島を訪れる船が島の”浮き”となり、訪れた人自らが島を形成していく。

拡張性のあるこの"浮き”と”触角”は、島を取り巻く自然の動きに適応する変幻自在な構造であると言える。海に浮かぶこのホテルは、環境のアンバランスを是正しながら、自給自足が実現した豊かなユートピアを楽しむためのゲートウェイなのだ。

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Photo credit: Margot Krasojević

Margot Krasojevićについて

Architectural Association School of ArchitectureとThe Bartlett, University College Londonにて建築を学び、ザハ・ハディッド・アーキテクツにて学生時代に働いた経験がある。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、グリニッジ大学、西オーストラリア大学、ワシントン大学にてデジタルかつサステイナブルなプログラムに携わってきた。学際的な建築デザイン事務所、Margot Krasojević Architectsを設立し、環境問題や再生エネルギー、サステイナビリティにフォーカスした活動をデザインを通して行っている。現在は、アジアを中心に再生エネルギーを建物のインフラとしたプロジェクトを展開しており、水力発電の住宅やホテルなどのデザインも手掛けている。カタルニアの大麻農場のデザインでは、サステイナブルな脱炭素素材、ヘンプクリートを利用し、その可能性を模索している。著書には"Dynamics and Derealisation" と "Spatial Pathologies-Floating Realities"があり、ワシントン大学の客員教授も務めている。建築には学際的なアプローチが重要との考えより、再生エネルギー資源とシュミレーションソフトによる建築学的な言語の技術開発にデザインの基準を置いている。