21世紀建築を特徴づけるデザイン思想の形成と発展をたどる
英国のBeam Galleryから刊行された新刊『Seamless Architecture of Fujiki Studio + F.A.D.S 2010 - 2026』は、この20年余りの間に世界の建築界で存在感を高めてきた建築潮流「シームレス・アーキテクチャ」を考察する一冊だ。本書では、東京の工学院大学に拠点を置く藤木隆明によるFujiki Studioと、藤木および佐藤由紀子が共同設立した建築設計事務所F.A.D.Sによる研究とプロジェクトが紹介されている。

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Photo credit: ©Fukunaga-shiko Co., Ltd. & ©Fujiki Studio, KOU::ARC
本書は、前作『Aqua-scape: The Nature-oriented Architecture』で提示された思想を発展させ、建築と自然、そして新たな設計技術との関係をさらに掘り下げている。その中心に据えられているのが、「シームレス・アーキテクチャ」という概念だ。これは藤木が提唱したもので、壁や屋根、さらには可能な場合には床までもを連続した一つの表面として捉え、継ぎ目を極力排した建築を指す。

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Photo credit: ©Fujiki Studio, KOU::ARC
著者らによれば、この考え方は20世紀に主流だった機械をモデルとする建築観からの大きな転換を示している。シームレス・アーキテクチャは、人間や生物の身体を覆う皮膚のような連続性を建築に取り込もうとするものであり、その実現を支えているのがデジタル設計技術や高度な製造技術、コンピュテーショナル・デザインの発展である。こうした技術革新により、かつては実現が困難だった流動的で一体的な建築表現が可能になった。

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Photo credit: ©Kanna Kawada & ©Masahiro Hoshida
本書では、この建築的潮流を国際的な文脈のなかで位置づけている。紹介される事例には、F.A.D.Sによる《Continuous Plate House》(2001年)、Peter Cookによる《Graz Museum》(2003年)、Future Systemsによる《Selfridges Birmingham》(2003年)、Zaha Hadid Architectsによる《Ordrupgaard Museum》増築計画(2005年)、PTW Architectsによる北京の《Water Cube》(2007年)、西沢立衛による《豊島美術館》(2010年)、MAD Architectsによる《Ordos Museum》(2011年)など、21世紀初頭を代表する建築作品が含まれている。
これらの建築は用途や規模、立地こそ異なるものの、表面の連続性や空間の統合、さらには従来の建築要素の境界を曖昧にする試みに共通点を持つ。それらは、有機的な形態や空間的な連続性を重視する新たな建築思考の広がりを示している。
理論的な考察に加え、本書にはFujiki StudioとF.A.D.Sが2010年以降に手がけたプロジェクトも数多く収録されている。その多くは国際的な建築賞を受賞しており、現代建築における実験的な取り組みとして高い評価を得ている。また、環境問題への視点も重要なテーマの一つであり、自然志向の設計手法と先端的なデジタル技術をどのように融合できるかについても論じられている。
書籍そのもののデザインにも、本書のテーマが反映されている。佐藤由紀子が手がけた表紙は、受賞作《Porous Manifold as a Japanese Tearoom》から着想を得たもので、日本の伝統的な折り紙の技法を応用して制作された。先進的な建築表現と、日本に受け継がれてきたものづくりの文化とを結び付ける試みといえるだろう。
近年、バイオミメティクス(生物模倣)デザインやパラメトリック・デザイン、コンピュテーショナル・デザインへの関心が高まるなか、本書はそうした潮流がどのように一つの建築言語へと結実してきたのかを示している。シームレス・アーキテクチャを単なる造形的なスタイルとしてではなく、技術と環境、そして建築の関係性を再考するための枠組みとして捉えている点も特徴的だ。
本書はすでに、ETH Zurich、University College London Bartlett Faculty of the Built Environment、Architectural Association School of Architecture、SCI-Arc、MITといった世界有数の建築教育機関の図書館に所蔵されている。建築家や研究者、学生にとって、21世紀の建築実践を理解するための貴重な資料となる一冊である。
藤木隆明・佐藤由紀子(F.A.D.S)
藤木隆明は建築家、研究者、教育者。東京大学で修士課程および博士(工学)課程を修了後、1991年にFujiki Architectural Design Studio(F.A.D.S)を設立。2001年より東京の工学院大学建築学部の教授を務めている。専門は環境建築および実験的建築であり、とりわけ自然界に見られる高度なシステムに強い関心を寄せている。
佐藤由紀子は2000年にデザインパートナーとしてF.A.D.Sに参画。日本女子大学卒業後、2012年から日本女子大学をはじめとする複数の大学で非常勤講師を務めている。教育活動と並行して、日本国内で数多くの建築プロジェクトの設計・実現に携わってきた。
藤木と佐藤は、研究、教育、実務を横断する建築設計事務所F.A.D.Sを共同で率いている。また、F.A.D.Sおよび工学院大学のFujiki Studioを通じて、環境性能、デジタルデザイン手法、そして自然のシステムから得られる着想を統合した革新的な建築の可能性を探求し続けている。

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