グラフィックデザイナーSho Shibuya

今回は日本で建築学科を卒業しながらもグラフィックデザイナーとなったSho Shibuyaさん。NYで自身のクリエイティブスタジオPlaceholderを経営する傍ら、サステイナブルプロダクトの開発にも取り組んでいます。彼にこれまでの人生、そして現在の活動、目指しているデザインについての話を伺いました。

学歴ではなく自分を見てくれる社会、NY

伊藤:まずはグラフィックデザイナーを目指したきっかけをお聞かせください。

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グラフィックデザイナー Sho Shibuya Photo by Naoko Maeda

Shibuya:僕は美大卒でもグラフィックデザイン専攻でもなく、建築学科の卒業なんです。専門学校時代、当時はまだ珍しかったアドビのソフトウェアを友達にもらいました。ロゴを作ったり、友達へグラフィックデザインをプレゼントしたりすることを通じて、自分が作ったデザインを褒めてもらったり、喜んだりしもらうことが嬉しくて、「もっといろんな人にグラフィックデザインを通じて喜んでもらいたい」と強く思うようになりました。

「グラフィックデザインの道を進みたい」という意思が強かったため、就職活動もグラフィックデザインスタジオばかり応募しました。ただ建築学科卒だということが大きな要因となって全て落ちてしまいました。結局、建築士として拾ってくれた会社が一つあって、そこで働き始めました。ただ一年後、やはり夢が諦めきれず求人を見ていたところ、出版社がエディトリアルデザイナーを募集していることを知り応募しました。そして念願叶ってグラフィックデザインの仕事にたどりつけたのです。

伊藤:どうして建築ではなかったのですか?

Shibuya:グラフィックデザインは、デジタルの世界に自分のイメージをアップロードした瞬間にデザインが出来上がる、そのリアル感がとても嬉しくて。当時のエディトリアルデザイナーはすごく忙しく、とても大変でした。それでもとてもやりがいを感じ、このままグラフィックデザインの道を進もうと決心したんです。

伊藤:そこには何年くらいいらっしゃったんですか?

Shibuya:約3年ですね。そのあと起業しました。高円寺の古い自宅のアパートメントでしたが、その後、千駄ヶ谷にシェアスペースを借りることができ、ブランドのエディトリアルを中心にデザインを任せていただきました。しかし、もっといろんなことにチャレンジしたいという気持ちが強くなり、NY行きを決めました。

伊藤:なるほど。大きな決断ですね。

Shibuya:はい。語学学校に行きながら、三ヶ月間、ポートフォリオを持ち歩いてスタジオを歩き回りました。そして世界的に有名なデザインエージェンシーWolff Olinsから、ちょうど独立して自分の事務所を構えたばかりのJavas Lehnに出会い、気に入ってもらいインターンさせてもらうことができたんです。NYが日本と違うのは学歴ではなく、僕自体が何者なのかをみてくれることだと僕は感じています。そして彼の会社で正社員になり、その後ビザのスポンサーにもなってもらいました。ここでの3年間が僕にとってはとても重要な期間だったといつも思います。

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Javas Lehnで働いていた当時の作品

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その後フリーランスとしてThe new york timesのT magazine、クリエイティブディレクターとしても有名な、Patrick Li氏のデザインスタジオ、Li, Inc.、など、数々の有名デザイン事務所で仕事をさせてもらいました。そこまではエイジェンシー(広告代理店)ばかりでインハウスのデザイナーは経験したことがなかったのですが、 スーツケースブランドAwayの創業者Stephanie Korey とJennifer Rubioと出会いがきっかけで、インハウスデザイナーとして設立メンバーに加わることになったのです。そこでこれまでに感じたことのなかった「ブランドを一緒に育てる」という感覚、creative department(デザイン事業部)以外の人と関わることで知った新しい世界、「スタートアップの早いスピード感」に刺激を受けました。

この経験がきっかけとなって、Placeholderはスタートアップを中心にブランドのクリエイティブ、ブランディングを担当する会社にしようと決めました。

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スーツケースブランドAway時代の作品

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今求められているデザインはただかっこいいだけじゃない、リサーチに基づいた意味のあるデザイン

伊藤:Shoさんが一般の人にも有名になるきっかけとなった、PLASTIC PAPERプロジェクト。なぜ、PLASTIC PAPER(ビニール袋)をデザイナーの視点から注目したのでしょうか?

Shibuya:8年前、NYに来た時、町中にあるやデリやボデガ(コンビニのようなお店)の薄く、すぐにやぶれてしまうビニール袋のデザインが日本とは違うことに気づきました。日本はどのバッグも、人が街で持ち歩いて宣伝になるようロゴがデザインされていますよね。ニューヨークのビニール袋のデザインは、どこも同じデザインの袋を使っていたりするんです。単にブランドの紹介じゃない、「グラフィックとしてデザインが生きている」と感じました。だからこそ、デザインとしてのビニール袋に興味を持ち、その経験がPLASTIC PAPERプロジェクトを始めるきっかけになりました。

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Photo by Henry Hargreaves

これを本にして出版しようと考えた時、デザインをかっこよく並べた本にして出版することもできました。ただ、そうしてしまうと買うのは一部のデザイナーだけだろうなと思いました。なぜなら、プラスチックバッグを見て僕のように感じる人は少ないことは周囲の反応からも知っていましたし、多くの人がそのデザインから何か「意味」を感じる内容でなければ本を手に取ってもらえないだろうと思ったんです。ちょうどその当時、NYでは使い捨てのプラスチックが環境汚染の観点から禁止されることが発表になったタイミングでした。そこで、本の売上金を含むこのプロジェクトの売り上げは、NPO法人のParleyに100%寄付されるという付加価値をつけた上で、プラスチックが与える環境汚染問題を人々に訴える本として出版しようと決めたのです。

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Photo by Henry Hargreaves

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今って、お金を払ってでも広告をなくすことを消費者が希望する時代ですよね。人はコマーシャル化されているものに価値を感じてくれない。デザイナーは今、これまでとは違った課題にチャレンジしているのだと思います。

これからもデザイナー

伊藤:今年はPLASTIC PAPERプロジェクトの一環でサステイナブルなグローサリーバッグ「BAMBOO BIODEGRADABLE BAG」をローンチされましたよね。どのような背景があったのでしょうか?

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BAMBOO BIODEGRADABLE BAG

Shibuya:PLASTIC PAPERの本を出版してから、サステイナブルな社会を実現するために取り組んでいる人との関わりも多くなり、自分の私生活も変化していきました。NYの一回使用のビニール袋が2020年の3月に法律で禁止される際に、レストランや、キッチンがあるデリやボデガなど生鮮を取り扱うお店は例外という法律の穴を見つけ、それを埋めたいと思い、色々考えていたところ、以前台湾でみたバッグがヒントになりアイディアが思いつきました。そのバッグのデザインをベースに生物分解できるサステイナブルな素材でできたバッグを作る案を思いつきました。実際にどんな素材を使用すればいいか、様々な条件を考慮しながら身の回りのものをいろいろ試しました。そしてたどり着いたのが「竹」の繊維だったんです。

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Photo by Henry Hargreaves

伊藤:デザイナーとしての思考プロセスを商品開発にも活用されたのですね。このアイテムは地元各紙、デザインメディアにも多く取り上げられ、アーティストとして注目もされていますが、アーティストとしての活動も考えていらっしゃるのですか?

Shibuya:僕自身は今後もグラフィックデザイナーの肩書で活動を続けたいと思っています。デザインを通じて人を幸せにする、それは今後も変わりません。機会があれば教育の分野にも携われたらとも考えています。

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MINDPARK Shenzhen Design Week


インタビュー後記

Shoさんは、リサーチを通じてそれが消費者にとってどんな意味を持つものなのかを意識してデザインされていると仰っていました。そういった考えが結果的に、企画や構想まで関わることにも繋がっているのだと感じさせられました。ぜひ多くの人にこのプロジェクトについて、そして彼の活動に注目していただきたいと思います。また、デザイナーとしてどのようにサステイナブルな社会づくりにどのように貢献しようかと考えている方にも見ていただきたいです。