ベルリンとテーゲル空港と幾何学と

私の住んでいるドイツの首都・ベルリンには4つの空港・空港跡地が存在している。テンペルホーフ空港、ブランデンブルク空港、シェーネフェルト空港、テーゲル空港である。テンペルホーフ空港はベルリン市街地南部に位置し、2008年に閉鎖され、現在は公園になっている。ブランデンブルク空港はベルリン南東部に位置し、2020年10月31日に開港したばかりの新空港である。シェーネフェルト空港はベルリン南東部・ブランデンブルク空港に隣接しており、新空港開港後はターミナル5として利用される。そしてテーゲル空港はベルリン北部に位置し、2020年11月8日に閉鎖・廃港となったばかりの空港である。今回は閉鎖・廃港となったばかりのベルリンのテーゲル空港を紹介する。

ベルリン・テーゲル空港(Tegel Airport, TXL)1974-2020

ドイツの首都ベルリンの北部に位置する、テーゲルにあった国際空港である。副名称として航空機技術者オットー・リリエンタールの名を冠している。ベルリン・ブランデンブルク国際空港の開港により、2020年11月8日に閉鎖・廃港となった。本来であれば2012年に閉鎖予定であったが、新空港の開港が9年も遅れたため先延ばしとなっていた。 空港の敷地は、科学および産業研究専用の新しい都市地区に再開発される予定である。

第二次世界大戦終結後の1948年に、ソビエト連邦政府によって西ベルリンの鉄道・道路が封鎖されたベルリン封鎖の際、既存のテンペルホーフ空港と共に西側諸国からの援助物資空輸のためにテーゲル空港に滑走路が設置された。1974年には六角形のターミナルビルが建設され旅客空港となった。その後は滑走路や空港拡張が不可能なテンペルホーフ空港から、発着便はテーゲル空港へと移っていき、ベルリンの主要な空港となった。

1989年のベルリンの壁崩壊、1990年のドイツ再統一後、ベルリンの空港はテンペルホーフ空港、テーゲル空港、旧東ベルリンのシェーネフェルト空港の3つに分かれており、利用効率の見直しが行われた。テンペルホーフ空港、テーゲル空港は都市部に近く国際空港としての拡張は不可能であったことから、比較的郊外にあるシェーネフェルト空港の隣接地に、ブランデンブルク国際空港がベルリン最大の空港として計画された。新空港の開港に伴い、テーゲル空港は2020年11月8日に閉鎖され、ブランデンブルク国際空港がベルリン唯一の旅客空港となった。

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テーゲル空港はベルリン最大の空港であったが、鉄道と直接連絡しておらず、バスや車でのアクセスであった。私たち日本人も入国・帰国する際に必ず利用する空港であり、様々な思い出のある空港だが、普段利用する際は見て回る時間があまりなかった。今回は最後の見納めということもあり、色々な発見があったので紹介していきたい。

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廃港になる一週間前に訪れた際は、いつも混雑していた発着掲示板の前の人通りはまばらで、大半の店舗はすでに閉店していた。人通りが少ないことでトップライトの造形に目が行った。約80m程の長さのトップライトを下のトラス構造が支えているようである。

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トップライト下は三角形のトラス構造になっており、真下から見上げると六角形が現れる。下から覗いていた時は気が付かなかったが、トップライトの上部形状は三角錐のガラス窓の連続で構成されており、設計者のこだわりが見て取れる。このテーゲル空港はメインターミナルビルの形状が六角形なことをはじめ、柱や細部など至るところの形状が三角形や六角形など幾何学形があしらわれている。

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発着掲示板上のトップライトを挟んで展望塔が2塔配置されており、この外形も中央のエレベーターシャフトも六角形である。また展望塔の最上階から眺めると、メインターミナルビルが六角形をしていることがわかる。このターミナルビルの六角形の外側が飛行機の駐機場所で、内側がタクシー乗り場など車寄せになっている。ビルの屋上は展望エリアになっており、最後の週は先着予約制で入場が出来たようだ。

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タクシーや車でテーゲル空港に入ると、ターミナルビルの下を潜り六角形の内側に出る。ここから搭乗口の最寄りの入口にアクセスする設計である。よく見ると中央の広告塔や車止めブロックまで六角形である。

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車寄せ・タクシー乗り場の入口からチェックインカウンターまでは約20m、カウンターから奥のセキュリティコントロール、待合室を通って航空機のドアまでは約15mと、テーゲル空港は短い距離と短い滞在時間をコンセプトとして設計されており、レストランやショップエリアは比較的少ない空港であった。

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ゆっくり空港を見て回ると、様々なところに幾何学へのこだわりが見受けられた。入口の張り出し部分は六角形の柱で支えられ、梁は6本に分かれ、軒下のパネルは三角形にパターン割りされていた。またバス発着場のタイルは台形タイルになっており、3枚で三角形、18枚でアイコンである六角形をかたどっていた。

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空港入口にそびえ立つ、高さ約50mの六角形の管制塔がテーゲル空港のシンボルであり、ランドマークであった。

空港内のあちこちに「#DankeTXL(ありがとうTXL)というハッシュタグのポスターが貼られ、アイコンである六角形に切り抜かれた写真と共に一文が添えられていた。管制塔写真のポスターにはまさに「Du warst Stilikone und Wahrzeichen」(あなたはスタイルアイコンでありランドマークでした)と書かれていた。

六角形のターミナルビルをぐるっと周っていると、2便ほどが離陸していったが着陸する飛行機はなかった。常にカウンターは行列で賑わっていた空港だが、このコロナ禍の中、訪れているのは乗客よりも私のようにカメラを片手に持ったベルリナー達だった。特に御年輩の方々が多く、慣れ親しんだ空港で思い思いの時間を過ごしているようだった。ドイツの首都ベルリンの空港なのに小さくレトロで、ベルリナーに愛されていた空港であったように思う。幾何学好きの私も、この数時間ですっかり魅せられてしまった。

テーゲル空港は、2020年11月8日15時発のパリ行きのエールフランス便による放水セレモニーを最後に、50年近い歴史に幕を下ろした。

閉鎖後については、空港敷地内に10,000人収容の新しい住宅地を建設する予定で、ベルリン工科専門大学の一部、企業・教育および研究機関を既存のターミナルビルに移転する計画もあるようだ。リノベーションが得意なドイツの計画、次にテーゲル空港を訪れる時が楽しみである。