優秀賞
「feel you」
作品に対する思い:コンセプトは、「私たちの空間を再構築する」です。人は感覚的な生き物で、無意識に自身の身体スケールを構築し続けています。例えば、人とすれ違う時にぶつからないということはお互いの身体スケールを無意識のうちに感じ取っているから。モノには重力が働くため、モノの下部に対しては物理的に認識できます。しかし、本質的に感じていることはモノの上部にあり、上部の何もない空気にモノの気配を感じているのではないかと思いました。この作品は、そんな日常に溢れる無意識の感覚を、点と線の2つの要素で意識的に感じて欲しいと思い製作しました。ある点をつなぐ時は、誰かの目線になる。点が線を結び、線と線の幅が誰かにとっての心地よい幅になる。自分一人で消化しきれない感覚が、ある人を思うきっかけとなり、違った視点で世界を見られるのではと思いました。訪れた人が、破壊と構築を繰り返しながら空間をつくり、ある時の違和感やその中にある少しの心地よさを感じて欲しいという思いを込めました。何気ない日常を過ごしてくれる人達、色々なことを考えさせてくれる人達、考えてくれる人達。多くの人のおかげで、様々なことに気づき、形にすることができました。本当にありがとうございます。「feel you」という作品名にあるように、この作品があなたの、誰かを想うきっかけになれば幸いです。(小林)
各審査員からのコメント
Magnus Gustafsson:同じ空間の人とつながることで、外観を変えながら、与えられた環境と相互作用するよう促す、非常にコミュニケーションがとれたプロジェクトです。 人が点をつなげて線を描くたびに、空間は生まれ変わり、作り直されます。この機能性こそが、オリジナリティーをもたらしています。 これらの機能を備えたこのプロジェクトは、ADFミラノサローネデザインアワードの要素を反映しています。 日本の指物はデザイナーの原点への興味深い言及といえますが、このインスタレーションには、その概念的精神をさらに強調するために、再循環または再利用された素材を使用するなど、あらゆるタイプの接続が適用できるかもしれません。
Piet Boon:このエントリー作品には、訪問者がさまざまな視点からモノを組み合わせることで、周囲の空間を再考できるようにした興味深い手法があります。さまざまな高さや身体的能力に基づいて、ユーザーにモノの配置の実行可能性を再考させ、与えられた空間の美学と機能性を再現するための無数の可能性を提供しています。 訪問者は、空間のデザインのエージェントです。 コミュニケーションスペースは、なじみのある人や見知らぬ人との情報交換を促します。ユーザーのニーズに対応する流動的、機敏かつ柔軟に適応する構造としての、建築とインテリアデザインの独自の考察です。
受賞者 小林楓太
2001年 長野県生まれ。2022年 東京都立大学(旧首都大学東京)都市環境学部建築学科 在籍。自身のデザインの考え、ポリシーについては、「まだ定まっておらず、作品や考え方に触れるたびに揺らぎながら、自分にとって大切なことを見つけていければと考えています。その中でも、言葉は特に大切にしたいと思っています。作品名や説明文を読んだ時のその人の感じ取り方と、自分が伝えたい事との比重を考え、どちらにとっても心地よい比重で伝えることは難しく、大切なことだと思います。」と述べ、今後の夢については、「作品を製作するようになってから、生活を様々な視点で見るようになりました。おかげで日々の生活の中で幸せと思う瞬間のハードルが下がったように感じます。様々な環境に身を置いて、人と出会い、考え、そして形にする。そんな日常を続けていければと思います。」と語ります。
「Outside/Inside」
「Outside / Inside」は、「容器」、時間、および製品設計の規範の概念で遊ぶ一連の物(オブジェクト)です。本プロジェクトには、「松林の匂い、そよ風の中で葉が互いにぶつかり合う音、小川の近くに常に集まるあらゆる物、そして特に、季節の儚う美しさなど、ヒマラヤのふもとに住むことの本質をひとつのオブジェクトに捉えようとしました。 このプロジェクトが、3D製品のレンダリングから高密度化されたデザイン業界の環境に、新しい息吹を吹き込むことを願っています。」との思いが込められています。このオブジェクトは、「あなたは『容器』について何を理解している?それを説明するとしたら、どんなイメージが思い浮かびあがる?そのイメージをどこまで広げることができる?遠すぎるとすればどこまで?」という問いかけから生まれました。「デザイン」するのではなく、松葉の自然な特性を捉えて身近なものに新しい価値をもたらしたいとの考えから、素材をそのまま使用し、ユーザーがオブジェクトを使用する独自の解釈を思い付くように自由に流れるフォームにし、好奇心と再発見の感覚を際立たせています。
各審査員からのコメント
Kota Bando:マテリアルの良さを引きすシンプルな造形が素晴らしいと思いました。このオブジェクトだけでも洗練され完成されたアート作品として成り立っていると思います。 その上、花を生ける器として、文房具を刺してスタンドとしての機能も持ち合わせていて、違物(花、文具)を掛け合わせることによりそれぞれの表情、意味が変化 することも面白いと思いました。このオブジェクトが時間経過と共に変化していく過程も楽しめるという点も評価しました。 “RE”についての説明は十分されていませんが、木材産業の副産物であろうpine needleを使用することは”RE“の概念に符合するのでは無いかと思います。
Eric Clough:私はこれを多くのレベルで高く評価しました-提示された写真とグラフィックスは明確で、よくブランド化されていました。 松葉の感覚と匂いが実際に画面から飛び出し、すべてが非常に繊細で正確に感じられました。 オブジェクトの「時間」または寿命、つまり針を新たに摘んだり、しおれたり、乾燥させたりしたときにどのように感じるかについて考えられました。 これが物であろうと単純な植物の装飾であろうと、これの単純さは、森の床を家のあらゆるテーブルの表面のための楽しい(しかし確かに、おそらく一時的な)製品デザインに持ち込むことに私の注意を引きました。
受賞者 Gaurav Wali/Yashika Munjal
日常のオブジェクトに影響を受けたインドのデザインデュオ。製品デザイン、工芸、材料研究の分野で活動を行っています。デザインの「モノカルチャー」に対抗し、自分たちがデザインを理解する中での新しい視点をもたらしたいと考えています。
コロナ禍でのアワード開催は今年で2年⽬になりました。外出制限、海外渡航の制限が続き対⾯での⼈と⼈の関わりは以前よりも、劇的に少なくなりましたが、アワードを通じて世界のデザイナークリエイターと繋がりが出来る事を⾮常に興味深く思います。⼀つのテーマを題材にして、世界中の応募者が考え、アイデアを出し、分解し、再度組⽴提案し、それを評価する事で、対⾯では無しえない繋がりが作れる事を実感しました。
改めまして、3グループ4名の⽅々受賞おめでとうございます。そして、当アワードをサポートして頂いている皆様、提携いただいている協会団体、本年度の審査員の皆様に感謝申し上げます。