東京・愛知で大回顧展が開催される現代美術の巨匠ゲルハルト・リヒターに迫る

美術出版社は、2022年6月7日(火)に『美術手帖』7月号を発売。日本では16年ぶり、東京では初めて美術館での個展が開催される「ゲルハルト・リヒター」を特集する。ゲルハルト・リヒターは1932年ドレスデン生まれ、ケルン在住の画家。青年期をナチスや共産主義体制下のドイツで過ごしたことで、ドイツの歴史との関係が制作の中心的なテーマのひとつとなった。

adf-web-magazine-bijutu-tecyo-2022-07-1

『美術手帖』7月号

特集「Gerhard Richter」

50年代初頭にドレスデン芸術アカデミーで社会主義リアリズム絵画を学んだのち、西ドイツに渡る。60年代前半には、ジグマール・ポルケやコンラッド・フィッシャー(リューク)とともに「資本主義リアリズム」を提唱した。同じころ写真をもとにしたイメージにぼかしなどの技法を加える「フォト・ペインティング」で高い評価を受け、70年代には「アブストラクト・ペインティング」を発表。抽象絵画と具象絵画を行き来しながら今日まで制作を続けている。adf-web-magazine-bijutu-tecyo-2022-07-6 日本で16年ぶり東京では初となる美術館での個展開催が決まっており注目が高まっているリヒター。特集では60年にわたる画家としての活動と多くの制作の先、その画業の到達点といえる大作《ビルケナウ》(2014)に焦点が当てられている。《ビルケナウ》は家族を含む自身の記憶とドイツの歴史、その光と影に向き合い続けたリヒターがアウシュヴィッツとイメージの問題に真正面から取り組んだ作品。そのタイトルはアウシュビッツのビルケナウ強制収容所の名前に由来し、ここから秘密裏に撮影されて持ち出された4枚の白黒写真のイメージと、その「真の恐怖」が扱われている。adf-web-magazine-bijutu-tecyo-2022-07-3

PART1に掲載されるドイツ文学研究の西野路代の論考では、その制作プロセスとこれまでの画業を手がかりに、カール・ヤスパースの「四つの罪の概念」とそれを超出する「自然」という契機をキー概念として《ビルケナウ》が読み解かれている。

adf-web-magazine-bijutu-tecyo-2022-07-2 adf-web-magazine-bijutu-tecyo-2022-07-5 また、第2特集では1960年代後半から始まるアースワーク(ランドアート)の中心的存在だったロバート・スミッソンがランドスケープ・アーキテクトのフレデリック・ロー・オルムステッドを論じた1973年のテキストを翻訳が掲載されている。19世紀後半にニューヨークのセントラルパークをはじめ、数々の屋外空間を設計したオルムステッドを70年代のポストモダンの視点から再検討したスミッソンの思考。新しい「エコロジー」や現代の芸術と環境をめぐる議論においても多くの示唆を与えている。