『美術手帖』8月号は、女性たちの美術史を新たに編み直す特集号
『美術手帖』2021年8月号は、「女性たちの美術史──フェミニズム、ジェンダーの視点から見直す戦後現代美術」特集を掲載。フェミニズムやジェンダーの視点から戦後美術史に介入し、「女性作家」を新たな方法で記述することを目指す。日本にルーツを持ち、「前衛」の時代に新たな芸術を模索した1920〜40年代生まれの作家たちを主にとりあげ、特集のメインパートを成す14組の作家論では、アーティストたちの作品とその独自性、作家としての戦略や足跡を解説する。
近年「女性アーティスト」の再評価が世界的に進み、今年は国内でも、森美術館「アナザーエナジー展」や、新潟・大阪・東京の3つの美術館を巡回する「Viva Video! 大久保成子展」など、女性作家に焦点をあてた展覧会が続々と開催されている。美術史は歴史的に白人男性中心主義的な視点で編まれたものが“主流”“正典”とされてきたが、特集ではそれらとは異なる視座や方法を提示し、これまで周縁化されることの多かった「女性作家」を紹介する。
例えば「具体美術協会」で活動した田中敦子や山崎つる子、「アナザーエナジー展」に参加している三島喜美代や宮本和子、日本では約30年ぶりとなる大規模個展が開催中の久保田成子など。
活動当時に注目を集めたものの、その後作家としての仕事がほとんど忘れ去られたり、功績に比べて十分な評価がなされてこなかった作家も多い。また女性作家たちは、芸術家グループの“紅一点”や著名作家の“パートナー”という付属的な存在として扱われることもしばしばあったという。
また、1950〜80年代生まれの作家数組の解説と、世代を縦断する論考を併せて掲載し、問題意識を現代へと接続する。
金沢21世紀美術館で10月より開催予定の「フェミニズムズ/FEMINISMS」展でキュレーションを務める長島有里枝、高橋律子、参加作家の藤岡亜弥、風間サチコの座談会を敢行。同世代の4人が、「第三波フェミニズム」や自身の創作、経験などについて語り合った。
さらにフェミニズム美術史の先駆者として知られる、美術史家・批評家のグリゼルダ・ポロックの最新ロングインタビューも収録。
世界のあらゆる場面で、ジェンダー不平等の問題が指摘されている現在。フェミニズムやジェンダー思想は、美術史やアートの世界をどのように変えるのか。独自の方法で社会や芸術と向き合ってきた魅力的な女性作家たちの実践や、創造性とジェンダーをめぐる問題について、じっくり知ることができる特集となっている。
特集内容
女性たちの美術史ーフェミニズム、ジェンダーの視点から見直す戦後現代美術
Introduction
フェミニズム/ジェンダー美術史って何?:吉良智子=解説 田中敦子 加藤瑞穂=文
- 山崎つる子 加藤瑞穂=文
- 福島秀子 中嶋泉=文
- 岸本清子 香川檀=文
- 三島喜美代 建畠晢=聞き手 杉原環樹=構成
- 田部光子 正路佐知子=文
- 富山妙子 山本浩貴=文
- 久保田成子 小田原のどか=文
- 宮脇愛子 小田原のどか=文
- 宮本和子 富井玲子=文
- イトー・ターリ 北原恵=文
- アン・イーストマン 馬定延=聞き手・構成
- 志賀理江子 馬定延=文
- Timeline Project 編集部=文
桂ゆき/丸木俊/菅野聖子/堀尾昭子/芥川(間所)紗織/江見絹子/多田美波/岡上淑子:檜山真有+加藤瑞穂=文
中谷芙二子/出光真子/塩見允枝子/斉藤陽子/林三從/杉浦邦恵/野中ユリ/合田佐和子:檜山真有=文
ESSAY
- 日本の前衛と女性:中嶋泉=文
- 現代美術史のフェミニズム、ポストコロニアリズム、トランスナショナリズム──インターセクショナリティの視座から:山本浩貴=文
- なぜ女性の大彫刻家は現れないのか?:小田原のどか=文 芸術と科学技術、そして「女性」作家──ある違和感から:馬定延=文
- バックラッシュを越えて──「女性」アート・コレクティブの興隆とBack and Forth Collectiveについて:内海潤也=文
Interviews & Opinions
- Cross Talk「フェミニズムズ/FEMINISMS」展:長島有里枝×藤岡亜弥×風間サチコ×高橋律子
- 「Viva Video! 久保田成子展」キュレーター座談会:濱田真由美×橋本梓×西川美穂子×由本みどり
- 対談:鈴木みのり×丸山美佳:クィア、インターセクショナルな視点と、葛藤を手放さないこと
- グリゼルダ・ポロック インタビュー「美術史におけるフェミニズム的介入という思考実践はなぜ必要なのか?」:中嶋泉=聞き手 田村かのこ=翻訳・構成