理想的な都市の姿とはVol.1

今回は「理想的な都市」について書いてみたい。

「理想的な都市」と聞くと皆さんはいったいどんな場所を想像するだろうか。近未来風の高層ビルが立ち並ぶ未来都市のようなイメージだろうか。それとも牧歌的な農村のようなイメージだろうか。

私はヨーロッパの古都のようなスケールの歩いて快適に生活ができる都市が理想だと考えている。

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スイス、ベルンの街並み

長いことヨーロッパに住んでいるからそう感じるのかもしれない。もしかしたら大学時代に出会ったヤン・ゲール(Jan Gehl)というデンマーク人のカリスマ的建築家アーバンデザイナーの著書『Cities of People』という本に影響されているかもしれない。

これまで仕事や旅行で40か国以上に渡航し数多くの都市を歩き回ってきているが、環境、社会、経済の分野で優れていると感じるのはヨーロッパの都市であり、居心地が良いと感じる(あくまで物理的な空間の話であって、人が親切であるとか言葉が通じるとか、ソフトの話ではない)。

その中でも最も優れていると感じたのはスウェーデンの都市。特にストックホルムのハンマルビー・ショースタッド(Hammarby Sjöstad)、ロイヤルシーポート(Royal Seaport)、ホーンスベリ・ストラン(Hornsberg Strand)リリーホルメン(Lijeholmen)やスウェーデン第三の都市マルメのウェスタンハーバー(Vastra Hamnen – Western Harbour)などのエコタウン・再開発事業は完成度の高い理想的な空間になっており、「都市計画の教科書」である。

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ストックホルム、ロイヤルシーポートの街並み

その他にもロンドンオリンピックが開催されたストラットフォード(Stratford)、ハンブルグのハーフェンシティー(Hafencity)、コペンハーゲンのスルーシュホルメン(Sluseholmen)、フライブルクのヴァウバン(Vauban)などでは理想的な都市の実現を目指す事業が行われている。

これらの事業を参考に、私なりに考えた「理想的な都市」の特徴を紹介したい。

  1. 徒歩や自転車で日常の用事が完結(「住・職・遊」近接)
  2. 緑地のネットワーク
  3. 雨水の管理・活用
  4. ウォーターフロント・水辺
  5. 適度な人口密度
  6. 中層・横長の集合住宅
  7. 省エネ建築と美しい景観
  8. 多様性(「住・職・遊」混合の土地利用、多様な物件)
  9. 地下空間の活用
  10. コミュニティーの活動

1.徒歩や自転車で日常の用事が完結(「住・職・遊」近接)

理想的な都市は徒歩で生活ができる。

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オランダ、ナイメーヘン 2018年European Green Capital Award受賞

徒歩や自転車での移動は環境負担がゼロであるだけでなく、健康的である。自動車と違い初期投資額が少ないため、貧富の差に関係なく、人々に平等に移動の機会をあたえる。高齢者や免許を持てない若年層や障がい者にとっても不利を感じない町となる。一時的にその町に滞在する観光客、ワーケーションやリモートワークの拠点としてその町に滞在する人にとっても楽である。

偶発的な人との交流が生まれるため、コミュニティー意識が強まり、孤独や疎外感といった精神的な社会問題も抑制できる。

ガソリン代の高騰といった問題とも無縁にあるため、経済的にも強靭になる。

徒歩や自転車で日常生活が完結するには職場やスーパーなどが比較的近くにあり、安全で快適な歩道や自転車道が必要である。一般的には半径800メートル、全ての目的地が20分ぐらいで移動できるのが良いとされている。これを基本的な地区の単位といて、他の地区へは公共交通で移動するイメージである。

なお、ヨーロッパでは自転車シェアが普及している。電動キックボードのシェアのサービス(hive, lime, tierなど)も急速に普及しており、移動の利便性を高めている。今後は高齢者用の電気車いすや、自動デリバリー用の車両などの利用が増えるかもしれない。

歩行者とのすみわけや安全性の観点からも、広々とした歩道または自動車専用レーンの設置が望ましい。

2.緑地のネットワーク

理想の都市には緑地のネットワークがある。

冒頭ご紹介したヨーロッパのエコタウンの事例を航空写真で眺めると、公園、街路樹、庭園、芝生、雑木林、湿地などの「緑」が線やネットワーク状につながっており、「緑の回路(green corridor)」を形成していることがわかる。

イギリス、ブリストル2015年European Green Capital Award受賞

イギリス、ブリストル2015年European Green Capital Award受賞

これらの緑地は公園としての機能だけでなく、線状に設置されることで歩道や自転車道としても機能している。車道と隔離されることで安全かつ快適な歩道・サイクリング道となっている。

風の通り道として(Urban ventilation corridor)として、空気を循環させヒートアイランド現象を抑制している。人々や住宅に直接強風があたらないよう、考えられて設置される場合もある。

緑地が連続することによって、野生動物の移動しやすくなり、開発行為による生態系への影響を軽減する、もしくは既に失われた生態系の回復に効果的である(少なくとも、車にひかれる野生動物を減らせるだろう)。

建物と建物、建物と道路の間のバッファーとして、プライバシーを守ったり、騒音を軽減したりといった副次的な効果も得られる。

ロンドン、ストラスフォード

ロンドン、ストラスフォード

そもそも緑地は人々を安らげる効果があるといわれているし、都市を美しく見せ、季節の変化を感じさせてくれる。

続きは次回。