象徴的な時代をリスペクトした機能美

MUアーキテクチャーがモントリオールの象徴的なコミューン通りに位置するレジデンシャル・スイート「スイート201」をデザインした。モントリオールの歴史ある旧市街に位置し、サン・ローレンス川に面したこの建物は約400年前の街の誕生からこの地域を見守ってきた。

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Photo credit: Ulysse Lemerise Bouchard

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有名な史跡

この魅惑的なレジデンシャル・スイートは歴史的な過去からインスピレーションを得てデザインされた。かつて居酒屋「ジョー・ビーフ」が使用していたこの宿屋は、19世紀半ばに賑やかなモントリオール港からの労働者や船員を温かく迎えていた。「庶民の息子」と慕われたこの宿屋の主人は、自分の居酒屋を安らぎと活気ある仲間意識の隠れ家へと変えた。このような背景をもつスイート201は人がもてなされる和やかな雰囲気を体現している。

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中に一歩足を踏み入れると、前庭からさりげなくスモークされたガラスパネル越しに広々とした共用スペースを垣間見え、落ち着いた雰囲気が広がる。入り組んだ木工細工と風化した石壁がタイムカプセルを思わせ、訪れる人を過ぎ去った時代へと誘う。この空間はその本質が見事に保存され、遺産との魂のつながりを感じさせる。

プライベートな居酒屋

居酒屋をコンセプトとしたリビングルームは3つのゾーンに分かれており、それぞれに独自の雰囲気とカラーパレットが施され、キッチンやバーエリアとシームレスにつながっている。この融合は、スイートのレジデンシャル的な雰囲気を難なく超越した没入感を生み出している。このコンセプトに沿うように伝統的なダイニングエリアは巧みに省略されている。

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広々としたオープンスペースには、絵のように美しいモントリオールの旧港を望む大きな窓から差し込む自然光が降り注ぐ。簡単なスイッチで偏光フィルムが窓ガラスを不透明にし、絶対的なプライバシーを確保できる。この地域の豊かな遺産を反映した本物の石造りの壁は歴史を感じさせる一方、ウッドパネルの天井は当時の建築様式を彷彿とさせ、洗練された落ち着いた雰囲気を醸し出している。2つの異なるブラックオーク仕上げをシームレスに統合した櫃の構成などには精巧な職人技が複雑なディテールに表れ、吊り棚には建築の繊細さとデザインの工夫に対する細心の注意が見て取れる。

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エボニーブラックのキッチン

キッチンとバーは落ち着いた雰囲気を引き継ぎ、さらに濃い色合いの木工細工が使われているものの、木目をさりげなく浮かび上がらせ素材に温かみと深みを与えている。フードや棚の色調に合わせた黒の石英カウンタートップとメタル・パネルが、ドラマチックな演出を完成させている。金属製の棚には周囲の照明が控えめに組み込まれている。キッチンの暗い外観にバランスするように微妙なカーブと丸みを帯びたコーナーがボリュームに柔らかさをもたらし、動きをスムーズにしている。真鍮のフットレストと水栓が、歴史的でありながらシックな輝きを放っている。

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隠されたウェルネスエリア

ランドリールームはドアの後ろに隠され、もうひとつの秘密のドアの向こうにはリラクゼーションエリア全体がある。スパ施設、スチームバス、シャワー、リラクゼーション台が、くつろぎのための完璧な空間を演出。間接照明とセラミックの表面は暗い石のようで、まるで岩に彫り込まれたような静謐な空間へと誘う。スモークガラスのパネルとイロコ材のアクセントが、この静謐で落ち着いた雰囲気をさらに高めている。

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マスター・ルーム

もうひとつの隠されたエントランスを抜けるとマスターベッドルームに隣接するドレッシングエリアがある。鏡の後ろに隠されたこの入り口からは丹念に作られた木製の羽目板で飾られた広い壁へと続き、豊富な収納スペースを見せる一方非常口が巧みに隠されている。スモークガラスの間仕切りに導かれ、自然で複雑な仕上げが施された親密なバスルームに向かうと、うっとりするような癒しの空間が広がる。

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寝室にはセカンドベッドルームがあるだけでなく共有のバスルームも備えている。部屋を出るとシームレスにリビングルームに戻り、迷宮のような、しかし魅力的なレイアウトが完成する。この建築デザインは機密性と機能性を兼ね備え、機能性と五感を魅了する美的魅力を調和させている。

洗練されたディテール

緻密な精度で作られた本プロジェクトは、複雑なディテールを核に持ちながらも古い歴史的建造物の中に調和して溶け込んでいる。エレガントで洗練された空間を実現するために、すべての配置と接続が細心の注意を払って設計された。家具のしつらいや美術品、装飾的な要素は周囲に生命を吹き込み、象徴的なジョー・ビーフの時代の伝説的で忘れられない夜の記憶を呼び起こしている。

MUアーキテクチャー

2010年シャルル・コーテとジャン・セバスチャン・ヘルによってモントリオールに設立。エレガントで現代的な住宅、人間重視のクリエイティブなオフィススペース、大規模な前衛的プロジェクトで知られている。設立者は世界的に有名な建築事務所での経験を生かし、モントリオール、ウィーン、バルセロナ、ドバイで最高水準の経験を積んだ。最新の設計技術を用いてユニークで無限の体験を創造するために空間や構造物を形作っている。その洗練された光り輝くスタイルは、プロジェクトごとに新たな形を生み出している。