Studio Feiが手掛けた、歴史的建造物をアートハブへと再生するプロジェクト
ニューヨークを拠点に活動する新進気鋭の建築事務所Studio Feiによるプロジェクト「Maison Sédimentation」は、伝統的なタウンハウスを再生し、その真正性を維持することを目的としている。モントリオール旧市街の歴史的な港の中心に位置する歴史的建造物に、コンテンポラリーなデザイン要素をシームレスに融合させることで、過去と現在の両方を称える魅惑的な空間が創出されている。
本プロジェクトは、建物を活気あるハイブリッド・アートセンターに変えるという革新的なアプローチが評価され、Architizer A+Awards 2023 Popular Choiceの「Unbuilt Cultural」部門で受賞している。
1692年に建てられた古い建物の基礎の上に、1770年頃に建てられたこのタウンハウスは、雪が積もらないように設計された勾配屋根や、防火壁として機能する高くなった端の壁など、特徴的な構造となっている。モントリオールのグレイストーンで造られたこの建物は、現在、地元の芸術財団の所有となっており、現代的なギャラリーと文化センターに生まれ変わろうとしている。ここを会場として、さまざまなアートや文化イベントの開催が予定されている。
モントリオールの歴史的な街並みと同様に、このタウンハウス自体も、建設や解体、そして部分的な再利用が幾重にも繰り返され、それらの様々な層が積み重なった、堆積物ともいえる。この複雑な歴史が、建物内の複雑な空間構成と様々な高低差を生み出している。その構造上の性質を踏まえながら、建物の保存と、展示スペースとしての機能的要件の両方を満たす空間を設計することは、容易なことではない。両方のバランスをとるための、慎重な戦略が求められる。
このプロジェクトは、元の建物の真正性を保ちながら、現代美術館のプログラムを調和させることができる、いわばパリンプセスト(すでに書かれていた文字を消して新しい内容を上書きした羊皮紙の写本)のような性質を持つ物理的な建物の層を創り出そうとしている。既存の建物は、物質的にも空間構成的にも基礎となるものである。古い建物のユニークな特徴である地形と空間配置は、しっかりとその重要性を認識したうえで、細心の注意を払って保存されている。その目的は、「統合的な修復」、「新しい要素を意図的に表現した修復」、そして「新築」の3つの異なる、しかし相補的なアプローチによって、様々な時間的経験をシームレスに統合することである。単に現代アートを収容するスペースを追加するのではなく、没入感のある感覚的な体験をキュレーションすることを目指している。
漸進的な修復を経て、「メゾン・セディメンテーション」は新旧の二項対立を超越する。訪問者を、陰鬱で謎めいた空間からニュートラルな背景へ、古典的な装飾から魅力的な質感へ、過去の名残から高められた現実へと、変幻自在の旅にいざなう。歴史、芸術、建築の革新が交差する証として発表された「Maison Sédimentation」は、モントリオールの文化的景観に新たな息吹を吹き込み、現在を受け入れながら過去に敬意を表する多次元的な体験を提供するのである。
スタジオ・フェイについて
建築家のヤン・フェイによって2020年に設立されたStudio Feiは、ニューヨークを拠点とする建築事務所。すべての建造物を、単なる構造物以上の存在として捉え、利用者との深い結びつきを提供する魂のある器、とみなしている。楊飛は芸術作品の二重性を堅く信じており、その物理的な枠組みを超越し、深い思考やアイデア、思い出、繋がり、感情を喚起する能力があると考えている。この哲学を基に、Studio Feiは物質の領域の制約を超えることを目指し、個人に共鳴し、持続的な影響を残す空間を創り出すプロジェクトに取り組んでいる。ヤン・フェイはSWJTUでB. Arch.の学位を取得し、その後ハーバード大学で学びを深めた。ニューヨーク、上海、北京で建築の実務経験を積んだことで、多様で国際的な視点をプロジェクトにもたらすことができている。