自然要素に焦点を当てる
スタジオ・エーシーによって設計されたデビルズグレンは、トロントから北へ数時間のブルース半島に位置している。デザインプロセスは現地でのピクニックから始まり、建物よりも敷地の自然要素に焦点を当てた話し合いが行われた。その時の会話がその後のプロジェクトの倫理観にインスピレーションを与えることとなる。
1つ目は、日中太陽の光が降り注ぎ水辺の景色を楽しめるように、そして自然の生息地をできるだけ壊さないように、NSEWに忠実に家を配置すること。2つ目は、屋根の形状が光や親密度のレベル、梢や水面、空への眺望を形成する装置として機能することであった。
この家は2つの直線的なバーで構成されており、一方は寝室、もう一方はオープンなリビングスペースとなっている。リビングは12フィート × 16フィート、寝室は12フィート × 12フィートというシンプルなグリッドで構成され、遮られることのない生活ができるように配慮されている。2本のバーをずらすだけで水辺に面した屋根付きテラスと入口の屋根付きポーチができ、同時に主寝室と副浴室のプライバシーを高めることができる。
また、このバーの移動と家の配置によって、敷地からは水辺の景色は隠されているが、家の中からは、森に面したビネットスタイルの窓と湖に面した広々としたガラスの壁によって風景と水を見渡すことが出来る。
一見シンプルに見える屋根は、この地域で降る大量の雪に構造的、形式的に対応するものである。屋根の形式的・構造的なコンセプトは横方向の安定性を高めるためにフレームとクラッドのトラスを用いることで控えめにしているが、これには2つの目的がある。屋根の外形は一貫しているが、主壁の高さ以上にある2つのバーの間の仕切りは自由にできるようになっている。各ベイ内では、この仕切りが左右に揺れ動き、時には親密なゲーブル、時には壮大なシェッド、時には光の漏斗を生み出すことができる。さらにこの屋根の上には、梢や雲、星空を眺めることができるスカイゲイジングプラットフォームも設置されている。
金属製の特異な建物はこの地域の農家の建物から着想を得たもので、仕上げ色に頼らない亜鉛メッキ仕様で一日を通して風景や空の色彩を映し出す。内装は屋根の上に白く塗装した乾式壁と合板をシンプルに配置することで、建築的な工夫を図るとともにアートや景色、日差しを遮ることのない背景を作り出している。
スタジオ・エーシーについて
建築とコラボレーションのためのスタジオ・エーシーは、アンドリュー・ヒルとジェニファー・クドラーツが率いるトロントに拠点を置く学際的な建築事務所。2015年に設立されたこのプラクティスは、その後数々の賞賛を受け、国際的に多くの出版物に掲載され、Azureマガジンの「30社の新たな地平を切り開くカナダの建築事務所」のリストにも含まれている。また、スタジオ・エーシーは、デザイン・エクスチェンジとRBCによって2019 エマージング・デザイナー・オブ・ザ・イヤーにも選出された。スタジオ・エーシーは、構想から実現まで、仕事のあらゆる段階でクライアント、コンサルタント、請負業者と密接に連携し、どんな問題も無限のチャンスをもたらすという考えのもと、ユニークで特別なものを生み出すために熱意と傾聴の姿勢でそれぞれの新しいプロジェクトに取り組んでいる。