洗練されたデザインが生み出す記憶に残る空間
建築設計事務所StudioACの手掛けたトロントの賑やかな商業通りに位置するこのクッキーショップは、シンプルでありながら視覚的に印象深い顧客体験を提供することを目的としている。テイクアウト主体の設計を採用し、限られたスペースの中で効率的な動線を確保しつつ、ベーカリーの裏側のオペレーションとは明確にゾーニング。客がクッキー作りの過程を垣間見られるようにしながら、店舗の活気と一体化する空間を生み出している。
デザインの中心には、空間の側壁と接するような円弧のフォルムが据えられ、通行人の目を引くだけでなく、メニューの閲覧、注文、支払い、受け取りといった一連の動作をスムーズに誘導する。天井には、この円弧を反映したカーブ状の収納スペースが設けられ、顧客とスタッフのやり取りをフレーム化することで、親密な交流の瞬間を生み出している。
曲線的な要素には、ショップのブランドアイデンティティを反映した特注のピンク色の染色を施した合板を使用。ステンレススチール製のカウンターや天井と組み合わせることで、温かみのある顧客エリアと機能的なベーカリーエリアのコントラストを明確にしている。さらに、ショップのパッケージにもこのピンクのグラデーションが取り入れられ、積み重ねた際に空間の一部として視覚的な魅力を増すよう設計されている。
StudioAC
Studio for Architecture & Collaboration(StudioAC)は、アンドリュー・ヒルとジェニファー・クドラスが率いるトロントの建築設計事務所。2015年の設立以来、多くの国際的な賞を受賞し、デザイン誌『Azure』や『Canadian Architect』にも取り上げられるなど高い評価を得ている。建築やデザインを通じてコミュニティの活性化や都市における対話の創出を目指し、明快で独自性のある空間を生み出すことを理念としている。