レンガの幾何学パターンをフィーチャーしたテヘランのオフィスビル
イランの首都 テヘランの賑やかな交差点近くに建つビル「11 Zomorrod」は、4つのブロックを積み上げた形状で、地下5階分の駐車場の上に、ダブルハイトの天井高の商業スペース、その上は最先端設備のオフィススペースが6フロア続いてる。2階にはプライべートテラス、最上階にはルーフテラスが設置されている。アルカランアーキテクツがデザインを手がけた建物は、下から上まで内外にレンガを使っており、この一貫したコンセプトにより、ビルとしての一体感が保たれている。
ビルの南側を走る一方通行の道路は、テヘランを南北に走る2本の幹線道路に続いており、ビル周辺は交通量が多い地域である。建築家の狙いは、忙しく行き交う中でも、人々の目に留まるような存在感のあるビルを建てることだった。そして足を止めて、その現代的でありながらもどこか懐かしい雰囲気に浸ってほしいと考えた。そこで、人や車の往来の激しい動的な外界とは対照的に、レンガの重厚さが静的な落ち着きを表す外観を、道に面した1階から3階に施した。3階の高さまでは周囲のビルが眺めを塞いでいるが、そこから上は一気に視界が開け、遠くの山まで見渡せる眺望が広がる。静的な3階までの様相は、地上の喧騒から離れ視界の開ける4階より上からは動的なものへと変わる。可動式のフレームにネジ留めして収められたレンガのモジュールが、窓辺のレールを移動して即興的なパターンを創り出すのだ。4階より上の道に面したファサードは、全面窓となっており、外から見える中の動きもまた、動的な効果をもたらしている。それは、街の喧騒と慌ただしい街並みを再現しているかのようである。
レンガのモジュールは、ビルの外観に変化をつけるだけでなく、オフィススペースに差し込む日射量の調節をする役割もある。モジュールには穿孔したカスタムメイドのレンガを使用して重量を減らす工夫がなされているものの、その重さはそれぞれ1,000Kg。重量のあるモジュールだが、床にレールを埋め込むことで、その上を簡単に動かすことができる。
ビルはフルオートメーションの最先端システムで管理されており、各ユニットに装備されたIPadで簡単に操作できる。空調システムは最先端のVRV4を導入し、ビル内の空間は空調と換気が効率的に制御されている。
ビルのどことなくノスタルジックな雰囲気は、伝統的な窯で作られた地元産のレンガによって創り出されている。本プロジェクトでは、機械化で大量生産された安価なレンガに押され、つぶれかかっていた地元の窯工房に30,000枚のカスタムメイドのレンガをオーダーした。これは、伝統を継承する工房の再起を助けただけでなく、地元に多くの雇用をもたらし、さらには地元から材料を調達することで環境負荷も減らしている。
ここで生産されたカスタムメイドのレンガは、穴を開けて軽くすることで、構造への荷重負担を軽減させ、さらに装着の際にネジでの固定が可能となり、設置をしやすくしている。穿孔されたレンガによって創られた幾何学パターンは、ファサードの表情としてだけでなく、屋内へ差し込む光としても現れ、ビル内に動きのある空間をもたらす。ビルを特徴づけるレンガが、建物の審美性と機能性の両方を高めるキーマテリアルとなっているのだ。
アルカラン アーキテクツについて
アルカラン アーキテクツは、建築家のMoeen AfzalkhaniとZahra Aziziによって、2010年に設立された建築デザイン事務所。テヘランとロンドンに事務所を構え、建築デザイン、コンサルティング、都市デザイン、建築物の保存・修復など多方面にわたり専門的なサービスを提供し、研究部門も保有している。建築にとって重要なのは、個性のあるデザインではなく、空間がもたらすエッセンス、そしてそれを取り巻く環境や社会的・政治的・文化的分脈の中での対話が大切だと考えている。建築とは、日常生活、そして個人や集団の空間での経験の延長にあるものとの考えより、プロジェクトの背景やクライアントの個性によって、案件ごとに異なるアプローチを展開する。