「構造色」を発現させるインクを用いた作品シリーズを含む新作65点を公開
舘鼻則孝の新作個展「PRIMARY COLORS」が品川・天王洲の注目のアートスポットTERRADA ART COMPLEX 5FのKOSAKU KANECHIKAにて、2022年4月16日(土)から5月28日(土)まで開催する。本展では色素を用いず光の反射によって生じる発色現象である「構造色」を発現させる特殊なインクを用いた作品シリーズ《Primary Colors》を初めて発表。
「構造色」とは光の波長程度の微細構造によって生じる発色現象で、物質自体に色素がなくてもその微細な構造によって光が干渉・分光することで発色して見える。自然界ではモルフォ蝶やタマムシ、貝殻などの例が挙げられ、その鮮やかな色彩が特長。この「構造色」を用いた特殊なインクには色素となる染料や顔料が含まれず、定着時にインク膜内に微細構造を形成する技術によって色が発現する。今回制作に技術協力した富士フイルムの開発した「構造色インクジェット技術」は、デジタルデータを用いて意匠性に優れた加飾印刷を可能にするもの。舘鼻は新しい平面作品のシリーズ《Primary Colors》において、この革新的なインクジェット技術とアクリル絵具を用いた彩色を掛け合わせるという実験的な試みを行い、最先端の技術が可能にした発色現象と絵画的な抽象表現が出会うことで新たな視覚表現が生み出されている。
絵画における抽象表現には豊かな歴史があり、バーネット・ニューマンに代表されるようなカラーフィールド・ペインティングにおける抽象表現手法は「地と図」の関係を否定することで成立する奥行きの無い平面が前提となってる。一方舘鼻が考える画面(フィールド)における「地と図」の関係は、モチーフが存在しないことで成立する平面という捉え方ではなく、東京藝術大学在学中に学んだ伝統的な染色技法である友禅染の技法的制約から導き出された価値観であった。そのような価値観について、舘鼻は次のように語る。
私が学んだ友禅染においては、正絹を糸目と呼ばれる細い輪郭線で染め分けるという技法的な制約があり、そのためモチーフが存在する場合でも「地と図」の関係は常に対等に表現される。謂わば、「地と図」を否定した同一平面上にモチーフが存在できるという点が、ヨーロッパ絵画における透視図法を活用した写実主義とは相対する、日本独自のデフォルメ表現を生んだ一端であると考えている。またこのような表現は、ヨーロッパ式の透視図法が広まった江戸時代以前からある価値観であり、日本独自の表現手法とも言える。
本展で舘鼻が採用する素材や技法は革新的な新鋭技術であるが、その背景には伝統工芸技法を活かした創作を続けるなかで生まれた視点がある。富山県の高岡漆器における伝統的な装飾技法として継承される螺鈿(らでん)等、自然界に存在する魅力的な素材や原材料を用いた作品をこれまで多く制作することで、自然界に存在する構造による発色現象を作品に取り入れてきたことが今回の着想の源となった。新作で用いている構造色インクは物質的な制約から解放された視覚的に偏向した作品を生み出すきっかけとなり、一方で作品のフォームに対するアプローチをどう捉えるべきか、という点についての舘鼻の考えはまだ途上にあり、創作を通して答えを導き出したいと舘鼻は考えている。
舘鼻則孝(たてはな のりたか)
1985年東京生まれ。歌舞伎町で銭湯「歌舞伎湯」を営む家系に生まれ鎌倉で育つ。シュタイナー教育に基づく人形作家である母の影響で、幼少期から手でものをつくることを覚える。2010年に東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻を卒業。遊女に関する文化研究とともに、友禅染を用いた着物や下駄の制作をする。「イメージメーカー展」(21_21 DESIGN SIGHT、2014)、「Future Beauty」(東京都現代美術館など国際巡回、2012)等の他、ニューヨーク、パリ、ベルギーなど世界各地で作品を発表。2016年3月にパリのカルティエ現代美術財団で文楽公演を開催など、幅広い活動を展開している。
舘鼻則孝「PRIMARY COLORS」開催概要
会期 | 2022年4月16日(土)から 5月28日(土)まで |
開廊 | 11:00 - 18:00(日・月・祝は休廊) |
会場 | KOSAKU KANECHIKA |
入場料 | 入場無料 |