多目的な用途に応えるフレキシブルなスペース
アトリエ・ゼブロン・ペロンがヒルトン・ダブルツリー・ホテルの1万平方フィート(約930平方メートル)の建設プロジェクトを完成させた。モントリオールの繁華街にあるオフィス、ホテル、ショッピングの複合施設、Complexe Desjardinsに位置し、既存の朝食スペースを多機能ルームに改装、優先宿泊客用のVIPラウンジエリアを新設、真新しいバー、レストラン、ダイニングルームを設計・建設するなど、複数の要素から構成されている。
アンカーとしての木を植える
本プロジェクトの核となるのは、広々としたブレックファスト・エリアである。朝食ビュッフェという用途を超え、隣接するホテルの会議室の休憩スペースとしても機能する、明るく多機能な空間をつくることに注力した。柔らかな色彩、上質なウォールナット、ホワイトオーク、大理石、ベルベット、ダイクロイック・スチールが、動きとスペースの機能的な側面に対応するすっきりとしたデザインに明るさと和やかさの感覚を吹き込んでいる。
プロジェクトに着手する前に敷地内を調査した際、長い間使われてこなかった天窓が見つかった。建築家は天窓を露出させることで空間に自然光を取り入れ、この天窓をプロジェクト全体の中心的な要素と位置付けた。そして大きな木を調達し、直接そのスペースに植えた。天窓から木を差し込むにはクレーンが必要だったがこれにより朝食スペースに「アンカー」となるものが生まれた。天井の同心円状のリングは、中央の開口部から水の波紋のように広がり、特注の照明器具と吊り下げ式の観葉植物が、明るく現代的な雰囲気をさらに高めている。
空間の有効利用
朝食をとるエリアから、一日を通して他の機能へと空間を移行しやすくするため、朝食サービスエリアを2つのモノリスの間に配置し、メインルームの視覚的要素から外した。メインスペースに隣接して、ホテルのプリファード・ゲスト・プログラムメンバーに快適な飲食サービスを提供するVIPルームが新設され、ガラス張りのパーティションで仕切られ、自然光の透過を維持しながら、プライバシーを確保している。また、隣接する屋外テラスにあるグリーンを生かし、室内に光を取り込むとともに、テラスの造園と朝食の吊りプランツやアンカーツリーとの間に変化を持たせている。
カナダをテーマに
レストラン「ビバーク」では、テロワールをテーマにしたメニューと地元産のチーズやワインを使った、コンテンポラリーなケベック料理を楽しむことができる。本プロジェクトのクライアントは、バーとレストランエリアのコンセプトをカナダの大自然の風景やアクティビティにちなんだ「グランピング」を連想させるものにすることを希望した。アトリエ・ゼブロン・ペロンは文字通りのヘリテージ・アプローチを取るのではなく、ダウンタウンの大型ホテルという現代的なコンテクストの中で、カナディアンテーマを和らげることに努めた。
このコンセプトを新しいレストランとダイニングルームに反映させるにあたり最初に導入された要素のひとつが、上向きに整然と並べられたカヌーのパドルの数々である。このテーマは、バーを囲む複雑なモザイクタイルパターン、ピクニック用の毛布を思わせるレザーストラップが張られた背もたれ、キャンバスのシェードからランタンのような光を放つトーテム型の照明器具など、様々なデザイン要素を通して空間全体に伝えられている。
快活なコネクティビティ
4階に位置するこのエリアはホテルロビーのレセプションエリア、または隣接するミーティングルームからアクセスすることができ、エレベーターコアの片側からはバーとレストランに、もう片側からは多機能な朝食スペースに直接アクセスが可能となっている。すべてのスペースは内部でつながっており、プールテーブルとトイレエリアは、バーと朝食エリアの間のトランジショナルスペースとして機能している。数段の短い階段を上がるとメインのバー・エリアがあり、温かみのある居心地の良い空間としてデザインされている。
バーからダイニングルームへと続くビバークは、大理石、ベルベット、広葉樹をふんだんに使った温かみのある空間で、特注デザインした照明器具が日中と夜間の両方の営業に最適な環境を作り出している。革張りのバンケット席はゆったりとくつろげるようデザインされており、広々とした窓からは、活気あふれるモントリオール市街を見渡すことができ、芸術広場やモントリオール現代美術館を眺めることができる。
アトリエ・ゼブロン・ペロン
2008年に設立の商業開発を専門とする設計事務所。ホテル業界に精通し、モントリオールの活気あるシーンに溶け込むバーやレストランのデザインで知られている。