「ADFデザインアワード2024」最優秀賞受賞のアンヘル・ボレーゴ・クベロ氏のインタビュー
青山デザインフォーラム(ADF)主催の「ADFデザインアワード2024」の審査結果が2024年4月に発表されました。今回は、レジデンスカテゴリーで最優秀賞を受賞された建築家のアンヘル・ボレーゴ・クベロ(ANGEL BORREGO CUBERO)氏をインタビュー形式でご紹介いたします。
この作品の背景と、結果に至るまでのプロセスについて教えてください。
1864年に建てられたオリジナルの建物には、非常に興味深い生い立ちがあります。パティオのファサードは、バルセロナの歴史上重要な時期におけるバルセロナ市庁舎と公共事業省の戦いを象徴しています。セルダ(イルデフォンソ・セルダ。スペインの都市計画家でバルセロナの整備拡張計画の立案者)が望んだものの、建設されることはなかった大通りに面していたからです。さらに、この建物は最近、バルセロナの反抗的な側面の政治的・グラフィック的シンボルとなっていました。私たちのデザインは、同時にこれらの緊張関係をすべて理解し、新しいタイプの共有スペースに結晶化させようとしたものです。
建築を進めるうえで、特に得意な分野やフェーズはありますか。
デザイン、コンテクスト、歴史、アート、テクノロジーを、共通の戦略的な物語を通して結びつけることが特に好きです。また、私のデザインに対するアプローチは、特定のプロジェクトに関わる様々な登場人物、ニーズ、欲求のコラボレーションを最大限に引き出す(そしてその結果をもたらす)ことに長けていると思います。
アイデアを生み出すとき、インスピレーションを得るのでしょうか、それとも独自の方法で考えをまとめるのでしょうか。
その両方です。私は通常、思考と空間を首尾一貫した物語にまとめようとします。しかし、どのような空間を一緒に配置するかは、私たちがどのように思考をまとめるかに大きな影響を及ぼし、私たちの思考を再編成し、新たな、より良い物語を探求することを可能にしてくれます。デザインは私の思考の組み立て方に影響を与え、私の考え方を少しずつ変えていくのです。
建築以外にはどのようなクリエイティビティに興味がありますか。建築に取り入れるものはありますか。
長編映画を2本撮りました。ひとつは建築コンペティションについてのドキュメンタリーで(『The Competition』というタイトルで2013年に初公開)、もうひとつは2023年ヴェネツィア・ビエンナーレの『College Architettura』を描いたものです。しかし、これはおそらく、私が建築設計やアートワークで使っているのと同じようなアプローチの別の応用に過ぎないと思います。かつて装飾が建築デザインの基本であったのと同じように、建築に動く映像や音、触覚を取り入れる余地はあります。建築や空間づくりにおいて変わっていくニーズを満たすために採り入れる他の技術や手法とともに、多くの建築家がこれらの分野や類似の分野で仕事をしています。これは常に進化する分野であり、必要性、機会、採用の微妙なバランスをとる行為なのです。
今後はどのような仕事を手がけていきたいですか。
私たちは、手段と結果、私的な願望と公共の利益に対する評価との間で、現実的かつ健全なバランスを保ちながら仕事をする優れたクライアントに興味があります。これは、良い建築とより良い未来のための最も重要な条件のひとつだと考えています。
建築のタイプについては、商業と公共空間、産業と自然、(見えないものとコミュニケーション/公共性)、仕事と生活、都市と農村など、最近では相容れないと考えられてきたプログラムを組み合わせることに非常に興味があります。
低コストの素材や工程を採用して幸福感や高級感を実現しようと努力してきた私にとって、最近新たな関心事となっているのが現代社会、私たちの生活、そして建築における高級感の影響の拡大について考えざるを得ないということです。過去数十年間、世界的な危機がますます頻発しているにもかかわらず、ファッションから自動車、時計、不動産に至るまで、さまざまな業界の高級品市場は繁栄を続けています。この驚くべき現象は、私たちの社会の価値観について何を明らかにしているのでしょう。同時に、ラグジュアリーブランドのイベントや旗艦店の実験的なデザインも急増していますが、その多くは他の分野により適したコンセプトの陰に隠れているようです。これらのスペースは、現代における人類の礼拝所に相当するものであり、最もクリエイティブな人々が働く機会を与えられる新しい聖堂と言えるのでしょうか。ラグジュアリーを中心としたコンセンサスを通じて、新たな社会性が生まれるのでしょうか。
ADFアワードについてどのような感想をお持ちですか。
ADFのアワードプログラムが、日本の現代文化に再び関わる機会を与えてくれることに感謝しています。数年前、私は慶應義塾大学のフェロー客員教員を数ヶ月間務めました。その間、現代建築やデザインに直接触れることができましたが、滞在期間が短すぎたため、日本の同業者との協力関係を築くことはできませんでした。ですから、ADFが提供するこの評価とプラットフォームは、交流とコラボレーションを始める機会だと考えています。
講評
Lorenzo Bini(ミラノ建築家協会および財団評議員、ADFデザインアワード2024審査員)
本プロジェクトは都市計画の観点から見たその特異な歴史と、近年の政治的意義に関連した象徴的価値のために意味深いものとなった既存の建物の改築を適切に扱っている。設計者たちは想像力豊かであると同時に敬意に満ちたアプローチで、建物全体を改築することに成功した。一方では、既存の構造のほとんどをリサイクルして回収し、他方では、建物の構成と空間体験を完全に覆す大胆な要素(新しい屋外階段)を考案し、並置した。既存の建物への敬意に満ちた非常に賢明なプロジェクトであり、新たに追加された建築の美しく制御された構造によって傑出したものとなった。