名作を実際の暮らしを想定した環境で展示

織田コレクション「建築から生まれた椅子展」が滋賀県高島市のモデルハウス「THE ART HOUSE」(運営:SAWAMURA)で2025年4月19日(土)まで開催中。本展では、建築家やインダストリアルデザイナーによる名作椅子を展示し、デザインと暮らしの関係を提示。実際の暮らしを想定したモデルハウスが展示となっており、建築と家具が一体となった空間が演出されている。椅子そのものがもつデザイン性や機能美だけでなく日常生活にいかに溶け込んでいるかを体感できる。

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「名作」と呼ばれる椅子の中には、建築家によってデザインされたものが多く存在している。それはかつて家具デザイナーが存在しなかった時代、インテリアは建築の一部という考え方が一般的で、建築家は建築デザインの一環として、家具や照明、壁紙やカーテンなどのテキスタイル、さらには時計やカトラリーといったプロダクトに至るまでをトータルにデザインし、生活空間を丸ごとプロデュースしていた背景がある。

なかでも彼らが手がけた椅子は建築の延長線上に位置し、建物に込められた美意識や機能性、そして時代の特徴を見事に表現。これらの作品は、革新的で独自性に富み、彫刻作品に匹敵する存在感を持ちながら、空間全体と調和する協調性も備えている。本展で展示されるのは建築家やインダストリアルデザイナーがデザインした椅子となっており、彼らが空間や生活の細部にまで心を配りながら、単なる物のデザインを超えて、人々の暮らしそのものを形作る挑戦をした軌跡を垣間見ることができる。

展示作品

ココナッツチェア_ジョージ・ネルソン George Nelson
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ココナッツチェア_ジョージ・ネルソン George Nelson

モダンデザインの傑作とも言われる“ココナッツチェア”。特徴的な椅子の形状はココナッツの塊からヒントを得たようで、ココナッツを8当分したうちの1つのかけらのようなデザインになっている。背もたれの部分だけ両サイドよりも少し長くなっており、背をしっかりと支えることで快適性を生み出している。

アームチェア_オーレ・ヴァンシャー Ole Wanscher
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アームチェア_オーレ・ヴァンシャー Ole Wanscher

ウィーン郵便貯金局の会議室のためにデザインされた。この貯金局では役職ごとに椅子のデザインを変えていた。椅子を見ればその役職が分かるという、椅子の持つ精神的な意味「地位を表す」を具現化した世界初の例。椅子の背から肘へ、さらに前脚へと続くラインは1本の曲木で生み出されたものであり、世界で初めてのデザインとなっている。

ラウンジチェア JH_ハンス・ヨルゲンセン・ウェグナー Hans Jørgensen Wegner / ヨハネス・ハンセン Johannes Hansen
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ラウンジチェア JH_ハンス・ヨルゲンセン・ウェグナー Hans Jørgensen Wegner / ヨハネス・ハンセン Johannes Hansen

デンマークの家具デザイナー、エリック・クローが1981年に書いた『The chair in the space,The space in the chair』という本では、空間における椅子の存在と、椅子のもつ空間的広がりについて述べられている。この考え方は、これまでにないユニークなものだった。椅子の下部から上部、後方から前方へとそれぞれ広い角度を持っており、パースペクティヴを感じさせ、この椅子を実際の大きさ以上に大きく見せている。

アームチェア_ フィン・ユール Finn Juhl
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アームチェア_ フィン・ユール Finn Juhl

家具の彫刻家と称されたフィン・ユール。彼のデザインする椅子は、流れるような曲線が特徴的でまるで彫刻作品のよう。この作品は、デンマークのビング&グリュンダール社製陶所のショールームでも使用され、後にニューヨーク近代美術館にも収蔵された。どの角度から見ても隙のない上品な作品となっている。

ワシリーチェア (茶)_マルセル・ブロイヤー Marcel Breuer
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ワシリーチェア (茶)_マルセル・ブロイヤー Marcel Breuer

ワシリーチェアは、スチールパイプを使用した世界最初の椅子で、モダニズムデザインの先駆けとなった名作椅子。革新的なアイデアのヒントは、ブロイヤーが手に入れた、アドラー社の自転車用ハンドルだった。しかし当時はパイプを曲げる技術が確立されていなかったため、苦労の末に誕生。曲げ加工したスチールパイプをフレームとし、背、座、肘かけに革を張るだけのシンプルかつ無駄のないデザインは、座ると体が浮いているような心地よさが感じられる。ブロイヤーはこの時期に鋼管を使用した家具を数多くデザインしており、家具の素材として鋼管を使用したパイオニア。

織田コレクション

椅子研究家の織田憲嗣氏が長年かけて収集、研究してきた20世紀のすぐれたデザインの家具と日用品のコレクション。北欧を中心とした椅子やテーブル、照明、食器など多様なデザインアイテムを収集。さらに写真や図面、文献などの資料を含め系統立てて集積されており、近代デザイン史の変遷を俯瞰できる学術的にも貴重なコレクションで、世界的に評価されています。北海道の東川町複合交流施設「せんとぴゅあ」にて常設展示されている。

織田コレクション「建築から生まれた椅子展」開催概要

会期2025年1月20日(月)~2025年4月19日(土)
時間10:00~17:00(完全予約制)
会場THE ART HOUSE
料金無料
URLhttps://tinyurl.com/3uayh9hd