没後30年。20世紀を代表するデザイナー 倉俣史朗の「幻の照明」が、Ambientecの最新技術で蘇る
ポータブル照明ブランドのアンビエンテック(Ambientec)は、世界的デザイナー 倉俣史朗の照明型オブジェ「Samba-M」の復刻版を、没後30年となる今年に商品化、7月より販売を開始する。クラマタデザイン事務所監修のもと、デザインギャラリー「ギャラリー田村ジョー」の企画でスタートしたこの復刻プロジェクトは、アンビエンテックのポータブルランプにおける専門性と高い技術により、商品化が実現した。
倉俣史朗は、20世紀を代表するデザイナーのひとり。その作品は、浮遊感、透明性、儚さや、独特の素材使いを特徴とする。シュールレアリズムや現代アートの影響を強く受け、遊び心に溢れた自由な精神は、効率重視で市場志向の今日のデザインの主流とは対極にあった。どの家庭にもある、ごく普通のワイングラスにインスピレーションを得た作品は、新たな挑戦でもあった。
Samba-Mの誕生の背景には、暗がりを照らす照明器具としてだけではなく、真の美術品として完成させたいという思いがあった。Samba-Mが初めて披露されたのは、1988年の「In-Spiration」展のオープニングパーティだった。このとき倉俣は、グラスにシャンパンを注いで赤く灯すパフォーマンスで、当時まだ無名だったロン・アラッドやザハ・ハディドも同席していた来場客を驚かせた。このパフォーマンスで、倉俣はプロダクトと芸術的ビジョンの間にあるデザインの存在を強調したのである。
1988年に発表された当初は、技術的な壁が立ちはだかり量産化は叶わなかった。このたび、アンビエンテックの最先端のLED技術と薄いガラスの二重構造を用いて、この幻想的な芸術品が蘇った。40年前にデザインの巨匠により注がれたワインの光沢に、柔らかなタッチの赤色で味付けした光が暗闇を明るく灯す。
アンビエンテックの他のポータブルランプと同様、Samba-Mも防水仕様(本体のみ)で、長寿命リチウムイオンバッテリーの充電式。他の新コレクションと共に、建築家ステファノ・ボエリのキュレーションにより、ミラノで開催されるスーパーサローネ(Supersalone)にて展示される予定。開催期間は、2021年9月5日から10日まで。
アンビエンテックの照明は、高度な技術と専門性を、デザインの分野に応用し、空間を魅了する美しく心地よい灯りを創出している。そのモノづくりは、創業者 久野 義憲の水中ライト事業のルーツに遡る。過酷な水中撮影を耐え抜くライトのノウハウを応用し、心地よい光を追求しながら、日常生活のあらゆる環境下で使用できる、ポータブルのインテリア照明を生み出している。Samba-Mはアンビエンテックの「機能的なアート」の哲学をもっとも的確に具現化した商品といえるだろう。
アンビエンテックについて
アンビエンテックは、照明器具のデザイン、製作、販売を行う会社として2009年に設立。CEOの久野 義憲が1999年に設立した、開発母体となるエーオーアイ・ジャパンにて、水中撮影機材の設計開発、商品供給を行い、今日もプロスペックを維持する水中ライトブランド「RGBlue/アールジーブルー」を開発。アンビエンテックは、アウトドア、浴室、住居、そしてカフェスペースまで、あらゆる日常空間を灯す照明に事業を展開すべく、立ち上げられた。頑強な素材を活かす精巧な技術により作られた同社の防水仕様の充電式ポータブル照明は、スタイルと耐久性の両方を兼ね備えた逸品だ。
倉俣史朗について(1934-1991)
「夢心地」を追求し、日常空間に浮遊空間を持ち込むことで、オブジェクトとの意外な関係性を創り出してきた倉俣は、1970年代から1980年代にかけて、デザイン界に大きな影響を与えた。1965年に、クラマタデザイン事務所を設立。1970年代から80年代にかけては、新興技術による工業素材の可能性を模索。1981年には、イタリアの革命的デザイン運動「メンフィス」に参加。運動のメンバーと共に、ユーモアのある精神と大胆な色遣いに情熱を注ぎ、「メンフィス」を主導したエットレ・ソットサスとは特に懇意にしていた。彼の破壊的なデザインを象徴するのが、金網材を内装や家具に全面的に使用した「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」や透明なアクリルの中にバラの造花を封じ込めた「ミス・ブランチ」などの代表作。カッペリーニのためにデザインしたチェストのシリーズ「プロジェッティ・コンピューティ」も有名。パリのポンピドーセンター、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、バーゼルのヴィトラ・デザイン・ミュージアム、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館、京都国立近代美術館(MoMAK)など、世界の主要な美術館で、彼の手掛けた家具・照明がパーマネントコレクションとして収蔵されている。