DESIGNERS IN THE NEIGHBORHOOD Vol.2: ISATO PRUGGER
「If you're reading this it's too late(今これを読んでいるならもう遅い)」とドレイクは歌うが、DESIGNERS IN THE NEIGHBORHOOD(隣のデザイナー達)の初回を見逃したなら,まさにその通りだ。私は今回、ここ数年出会った優れたデザイナー数人に焦点を当てインタビューを行った。彼らのユニークな考え方、モノづくりのビジョンは、工業デザイン界の、時に隠された、しかし無視できない重要なアスペクトを映し出している。
前回アルベルト・ギラルデッロを取り上げたが、今回はデザイナー村に住む私の二人目の「隣人」であるイサト・プルガー(Isato Prugger)。イタリアのデザイン界新進気鋭の、モノの「美しさ」を探求する秀でた個性を持ったデザイナーである。プルガーの近況について話した。
実際、私がプルガーに初めて会ったのは、去年の10月イルミナツィオーニ・エキシビットが開催した「デザイン・アンティドト」展だった。「デザイン·アンティドト」展とは世界的なコロナ禍で隔離生活が余儀なくされた故に誕生した、コロナ·ポストコロナを見据えたプロジェクトを紹介する展示会で、ミラノデザインデイズ2020の会場の一つである。そこには、プルガーがマッテオ・マリアニと立ち上げたMAIS Project(マイス・プロジェクト)がデザインしたバイオプラスチック素材のカップ、BicèBio(ビチェ・ビオ)を含む7つのデザインが展示されていた。
2019年ミラノサローネで同時開催された照明見本市「EUROLUCE」にて充電式ポータブル照明「FLAI」でデビューした若いデュオのMAIS Projectは、主にプロダクトデザインとデザインコンサルティングを手掛けながら、インダストリアルデザイン業界で活躍している。そして、今回は植物由来のバイオプラスチック製のリユーザブルカップ「BicèBio」を発表。従来のプラスティック製造工程で排出される廃油をなくし、生分解可能な原材料のおかげで実現した100%リサイクル可能の環境に優しいプロダクトだ。
BicèBioは、軽さ、リーズナブルさ、再現性といったプラスティック材シリーズ生産特有の利点と、確信的なデザインとMade in Italyのクオリティを巧みに兼ね備えている。
使い捨て品製造におけるプラスチックの乱用を、再生可能資源から生み出された製品に置き換える、というのが、このBicèBioの長期的なビジョンである。世界がロックダウンで止まっている間に、全世界も環境汚染のテーマと現実的に向き合おうとしている。
BicèBioは、「Packaging innovations2020」のアンダー30アワードを受賞した。
イサト・プルガーはミラノ、ストックホルム、東京、東莞(中国)などの幅広いデザイン部門で経験を積んだ後、2016年にプロダクトデザイナーとして独立した。
「クアランティン」というテーマがプルガーと話すきっかけになった。近代社会の環境汚染の反省から生まれたBicèのおかげで、図らずも私たちは出会ったのだ。Bicèはマスプロダクションの生産性を効果的に利用し、気高い理想の普及を目指す。
今回のロックダウンこそが、プルガーのデザイナーとしての在り方、そして彼の「デザイン」の役割を見つめなおす機会となった。
実は数日前、プルガーの最新作であるstudio lampを見た。そして即座に彼に連絡した。studio lampは、現代インダストリアルデザイン界が傾向するミニマリズムから意図的に距離を置いた、職人技に近い作品だと感じた。
ミニマリズムの「非ボリューム」コンセプトと対立するようなフォームを描き、無垢材という比較的重量感のない素材を使用しながら、あえて圧倒されるような存在感、立体感を持たせたデザインになっている。
デジタル(=幾何学的)で機能的な「美しさ」を重視したモノづくりがメインストリームになっている昨今、「感覚」(=人間的)を優先したモノづくりがしたい。
studio lamp - @isatoprugger
対極のデザイナー、プルガーは幅広い専門知識を活用しながら、工業デザインとリミテッドエディションの狭間で、モノの価値を探求しつづける。モノが単なる生産物にとどまらず、リサーチ、分析、コミュニケーションの集大成であると彼が認識していると感じた。
彼のインタビューを通して、少しでもそのビジョンを学びたいと思う。そして読者にもシェアしたい。
ヴァージニア: Instagramプロフィールに投稿された最新作studio lampを拝見させていただきました。今までの作品と違い、今回は工業デザインから距離を置いているように感じます。
プルガー: 工業デザイン界はコストを抑えるため「標準化」と「再現性」という聖なる法則に拘束されていると思うんです。スタンダードな部品が使われ、スタンダードな工程を経れば、スタンダードなカタチが出来上がるのは当然ですよね。結果、ブランド名やデザイナーが変っても、どこか少し似ているプロダクトばかり、そんな気がしてきたんです。クリエイティビティはどこにいったんだとう…と(笑)。
コロナ禍ロックダウン中、そんなメインストリームと方向性が違うアウトプットをしたくて、機能性はもちろん、フォルムが再び重視される、デザインと彫刻の間を浮遊するようなプロジェクトに取り組んでいました。
照明作りの経験もあったので、無垢木材のテーブルランプのデザインに集中しました。無垢材は、理想的な熱の伝導体でないため、照明業界にとって厄介な材料です。業界が振り向かない素材こそ、そこにまだ探求されていない可能性が秘められていると考えたんです。
ヴァージニア: studio lampが、あなたが「デザイナー」という職業の定義を考え直したきっかけになったと言ってもいいでしょうか?
プルガー: 私たちは空間に置かれているすべてのモノの価値、所持しているモノに対する責任をしばしば忘れがちです。素材の価値だったり、職人達の技術だったりが当然に見えて、存在を感じなくなって来るんですよ。それらの消えた存在感を蘇らせて還元する、そしてそれら無しでは成り立たないモノを作る、そんなふうに考えているんです。芸術作品の取り扱い方に少し似ています。
素材の特性を強調しながら、ストイックで静かな存在感を作り上げることを目的にstudio lampをデザインしました。」
ヴァージニア: 作品の機能性より「フォルム作り」を優先したと思っていいのでしょうか。
プルガー: フォルム作りは、デジタルで幾何学的な美学への抵抗から始まったんです。
デジタル化が普及して、現代の「美」のセンシビリティは非常にそれに影響を受けていますよね。私たちは、2Dのスクリーンに慣れすぎて、実際モノづくりに挑むとき、現実の3次元目を忘れがちです。その結果、ヨーロッパでは2D画面でも簡単にイメージでき、把握できる形、規則的な線、円などに基づく作品が溢れています。そんなデザインに面白味を感じなくなったんです(笑)。
人間の美学は、「定義」じゃなくて「意思」で作り上げられた、主観的で不完全なものでしょう? きっちりしすぎたら、つまらないですよね。私は、彫刻制作に似たアプローチで作業しています。作品の主役となる曲線は常にフリーハンドで塑像用粘土を使ってモデリングしています。
ヴァージニア: 最後になりましたが、このコラムには欠かせない質問です。あなたにとっての「隣のデザイナー」は誰ですか?
プルガー: ミラノ出身なんですが、デザイン界のメインストリームにはそこまで詳しくありません。でも、孤高のアーティスト達にはいつも魅了されてきました。彼らの作品だけでなく、歩んだ人生にとても興味があります。神秘的なエットレ・ソットサス、紳士のウェンデル・キャッスル、天邪鬼な山本耀司、そして破天荒なコンスタンティン・ブランクーシ。彼らがが近所にいたらすごく刺激的でしょうね。皆さんヒゲを生やしていますし、その貫禄も魅力かもしれませんね(笑)。
※studio lampは2021年5月に100個限定でリリースされる。
彼の作品を見逃さないようウェブサイトisatoprugger.comにStay tuned!
INFO
URL | https://isatoprugger.com/ |
MAIS Project | www.maisproject.com |
@isatoprugger @maisproject @bicebio |