ドイツ、デュースブルクにある廃工場を景観公園にしたLandschaftspark Duisburg-Nord

ここ最近は、原美術館や中銀カプセルタワービルなど、名建築の解体の話を耳にするようになった。諸事情があってのことと思うが、後世に残していきたい気持ちがやはり大きい。

私の住んでいるドイツは環境先進国として有名であり、使われなくなった建築のリノベーションやコンバージョンをよく見かける。廃ビール工場がオフィスになったり、防空壕がアートギャラリーになったり、空港の滑走路が公園になったりしている。

今回はそんなドイツの西側、デュースブルクにある廃工場を景観公園にしたLandschaftspark Duisburg-Nordを紹介する。

私が以前住んでいたドイツの北西部に位置するデュッセルドルフでは、定期券を持っていると週末に移動可能範囲が拡大され、ライン・ルール地域全域まで自由に電車に乗ることができた。その定期券を利用して週末は電車で様々な建築を巡った。 ラインとはライン川、ルールとはルール工業地帯のことで、社会の授業で聞きなじみがあるかもしれない。

デュースブルクはデュッセルドルフの北に位置するルール工業地帯に属する都市で、第二次世界大戦後もドイツの重工業業を牽引した。そこにはエッセンやドルトムントなどの都市も含まれる。

ルール地方には地下に炭層があり、13世紀頃より石炭が採掘されていた。産業革命により、18世紀後半にエッセンなどで石炭資源を利用した製鉄が始まり、炭鉱や、石炭を加工した燃料のコークス工場、鉄を加工する工場などが増えていった。炭鉱、コークス工場、製鉄所、鉄加工工場などが発展し、重工業地帯となっていった。このような背景と、ライン川とルール川の合流地点に位置するデュースブルクは、工業都市として発展していった。その後1970年代の石油危機からなる鉄鋼危機や、安価な外国製品の流入や技術的な遅れ、河川に大型船が入港できなかったことから、次第に衰退していった。

ランドシャフツパーク デュースブルク ノルト(Landschaftspark Duisburg-Nord)1994-

ここはもともと1901年に設立し、1985年に閉鎖された旧ティッセン製鉄所で、鉄鉱石から鋼を精製していた。180ヘクタールの敷地からなる、高度産業時代の工場建築である。ヨーロッパ市場が鉄鋼を過剰生産するまで操業していた。鉄鋼,炭鉱産業の斜陽化により衰退していった。

閉鎖することで都市のイメージを悪化させることを恐れられていたが、ランドスケープアーキテクトのペーター・ラッツ(Peter Latz)教授らのコンセプトにより、1994年に自由にアクセスできる景観公園に統合された。誰でも24時間無料で利用できるレクリエーション機能をもつ公園となることで、かつてないほど活発になっていった。

adf-web-magazine-landschaftspark-1

adf-web-magazine-landschaftspark-2

かつての製鉄所は、庭園・牧草地・水域に囲まれ、展望台・ロッククライミング・ダイビング・ウォーキングなどを楽しめるレジャー施設となっている。ここでは誰でも「生きている」産業記念碑として古い製鉄所を探索することができる。

adf-web-magazine-landschaftspark-3

adf-web-magazine-landschaftspark-4

さび付いた廃工場は緑が生い茂っており、犬を連れて散歩している人もいた。高齢な女性たちが、巨大な工場跡地の中を談笑しながら散歩していたのが印象的であった。

adf-web-magazine-landschaftspark-5

adf-web-magazine-landschaftspark-6

高炉には誰でも展望台として登ることができ、かつての製鉄施設を間近に見ることができる。工場建築が好きな人にもってこいの公園である。また、さび付き苔むした人工物などが自然に取り込まれていく様は、廃墟好きな人にもうってつけである。

adf-web-magazine-landschaftspark-7

adf-web-magazine-landschaftspark-8

高炉を登るとかつての製鉄所、景観公園全体を見渡すことができる。この日も私を含め、多くの観光客が訪れていた。

df-web-magazine-landschaftspark-9

adf-web-magazine-landschaftspark-10

高さ70mある展望台からは、ルール地方西部や、ライン川下流の景色を眺望できる。無機質な工場が緑に取り込まれている姿は、まるでラピュタのようである。

adf-web-magazine-landschaftspark-11

adf-web-magazine-landschaftspark-12

奥に見えるガスタンクは、直径45m・深さ13メートルあり、スキューバダイビング場に転用されている。その前にあるオープンシアターではコンサートなどが催され、コロナ前はたくさんの来場客でにぎわっていた。

adf-web-magazine-landschaftspark-13

adf-web-magazine-landschaftspark-14

敷地の線路の上にはさび付いた貨物列車がそのまま置かれており、かつての風景が思い起こされる。鉄鉱石を燃料庫に運ぶためのボーディングブリッジは、その形状からクロコダイルと呼ばれ、夜にはライトアップされ、景観公園のアイコンになっている。

adf-web-magazine-landschaftspark-15

adf-web-magazine-landschaftspark-16

コークスと鉄鉱石が保管されていた場所は、分厚いコンクリート壁で囲まれている。チューブスライドがコンクリート壁を突き抜けて設置されており、若者たちに人気であった。

adf-web-magazine-landschaftspark-17 adf-web-magazine-landschaftspark-18

通路を作るために開けたと思われるコンクリート壁の開口部。その分厚さが見て取れる。ここでは急勾配かつ頑丈な壁を利用したロッククライミング施設となっており、子供から大人までが楽しんでいた。

adf-web-magazine-landschaftspark-19

adf-web-magazine-landschaftspark-20

広い敷地内は徒歩で歩き回ったり、レンタサイクルで探索したりすることができる。産業と文化の歴史をガイドツアーで周ることもできるようである。

工場跡地がこのような景観公園・レクリエーション施設になっており、自分も体験しながら人々が楽しんでいる姿を見れたことは良い経験であった。施設の特性を活かし、無理なく再利用されている様は、合理的でドイツらしいと感じた。

日本でも国内最大手の日本製鉄が広島・呉製鉄所の高炉を今年9月に休止し、2023年には全面閉鎖すると聞いた。国内需要の低迷化と経営環境の悪化が理由だという。今後どのように使われるのか気になるところである。

日本は自然災害が多いことや、高度経済成長期によるスクラップアンドビルドの手法から、保存・活用する手法へシフトするタイミングである。このドイツのランドシャフツパークは、文化を継承しながら、建築の持つパフォーマンスを最大化する長期運用方法のひとつの解答と言えるだろう。