コンテンポラリーデザインスタジオwe+インタビュー

人々は長い歴史の中でより「豊かな」生活を求め効率化を追求し、産業を発達させてきた。しかし、新型コロナウイルスの流行により、これまでの当たり前が当たり前ではなくなった今、世の中の流れや仕組み、思考が変化し、改めて世界中の人々が今後の人間のあり方について考える歴史的な潮目を迎えているのではないだろうか。今回、人間、社会を独自の視点で捉え、テクノロジーや特殊素材を活用した実験的なアプローチで世界的に評価を受けているコンテポラリーデザインスタジオwe+の安藤北斗さん、林登志也さんに、現代社会や彼らのものづくりやデザインについてお聞きした(外出自粛が続く5月半ば、zoomを活用してインタビューに答えていただきました)。

自然を制御しながら発展してきた社会への違和感

伊藤:自然現象にフォーカスをおく作品を多数作成されていますが、昨今の社会をどのように捉えていますか。

安藤:人類はもともと環境と共存することで生きてきました。ただ、産業革命以降、人間は環境を制御するかたちでものを生産してきたと思います。ただそのエコシステムが今飽和しつつあり、さらに今回のコロナウイルスの影響で社会に閉鎖感が生まれたことで、自然を制御してきた結果ある現代社会の問題が浮き彫りになってきていると感じています。

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we+ (左:林登志也、右:安藤北斗)

先日発表した資生堂のBeauty Innovation 2020は、「制御の先に見えるもの」を考え、作品作りに取り組みました。あの作品では、紙が宙に舞う様子をサーキュレーターの挙動によって生み出しているんです。サーキュレーターを使って動きを制御しているのですが、そこから先の動き、例えば風同士のぶつかり方だったり、紙がどうやって風を受けるのかだったりは、ほぼ制御ができません。プログラミングされた環境下ではなくなるのでその動き方はかなり多様になりますし、コントロールされていない自然の動きを見せることができるのです。この作品では、多様に変化する「自然の面白さ」みたいなところを見せられないかなっと思っていたんです。

どこかで感じたことがある「原体験」がデザインの根本

伊藤:なかなかそのような自然現象を捉えることは難しいと思うのですが、どういったタイミングでフォーカスをおく自然現象を見つけ、アイディアを形にしていくことが多いのでしょうか。

林:僕らは誰もが経験したことがあるような「原体験」をアイディアのヒントにしています。水だったり風だったり、自分たちを取り巻いている身近な自然って、ほぼ世界中の人がそれに触ったことがあり、同じような様子を見たことがあるのではないかと思います。「原体験」にフォーカスをあてて形にしていくので、作品作りを始めるとなったら、自分たちの身の回りにあるものを、もう一度つぶさに見てみようかな、って思って考えることが多いでしょうかね。多くの人が無意識のうちに体験したことがあるような「原体験」を生かしながら、その記憶を増幅させるような「新しい体験」を提供する作品を考えていくというプロセスです。

MOMENTumだったりDriftという砂鉄の時計だったり、本当にハマる人はハマって15分とか20分とか、ずっと作品の前から動かない人もいるんですよ。僕らの作品の根本に、こういった「原体験」を想起させる要素があるからこそ、見入ってしまう人がいるのかもしれません。

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MOMENTum

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Drift

伊藤:これからお披露目する予定のある作品などはあるのでしょうか?

安藤:我々が所属するデザインギャラリーRossana Orlandi(ロッサーナ・オルランディ)で近々発表する予定の「Swirl」という作品があります。

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Swirl ( Photo: Masayuki Hayashi)

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伊藤:この作品を考案された背景にはどんな思いがあったのですか?

林:これまで申し上げた通り、人間は自然を制御する形で産業を発展させてきました。水も同じです。例えば日本では農作物を作るため水路を整備したり、生活のためにダムを作ったりしてきましたよね。自然の水の流れ、あり方を制御し、物事の効率化を計ってきた結果、今、水の問題は日本だけではなく世界的な環境問題の一つになっています。飲み水がすぐに手に入り、洪水による災害に常に怯える必要がないような生活ができているのはそういった歴史のおかげなのですが、今後もこれまでと同じ自然との向き合い方、ものづくりのあり方でいいのだろうかという問いに対し、僕らなりのやり方で社会に対する視点を表現できないかと思いこの作品を考えました。自然をあるがままに受け入れることで、新たな制作手法や表現が探求できるのではないかと考えています。

伊藤:どうやってこの形を作り上げるのでしょうか?

林:簡単に作り方を説明すると、五右衛門風呂みたいな桶に水を入れて、ぐるぐるとかき混ぜることで水流を生み出し、そこに溶けたろうを流し込むんです。そうすると水流を可視化したような形状を生み出すことができるのです。ロウを金属に差し替えるロストワックス(ロウで原型を作り、周りを鋳砂や石膏で覆い固め、加熱により中のロウを溶かし出して除去する)という鋳造方法でロウをアルミに差し替え、作った照明がこの作品です。

伊藤:なぜ日常生活で身近にあるような、照明にしたのでしょうか?

安藤:理由は二つあって、一つ目は、社会に実装しやすいものだからですね。そして二つ目は、一般的なものにあえてすることで、意図的に大量生産大量消費社会との対比を作り出したかったからですね。

デザインの新たな可能性をこれからも提案していきたい

伊藤:アフターコロナ、その先の社会についてどのようにお考えですか?

林:安藤も申し上げましたが、人類はそのような歴史を歩んできて、今社会システムに揺らぎが生じて地盤が緩んでいると感じています。ただこれを僕はポジティブに捉えていて、新しい根が生えやすい環境になっていると思っています。様々な可能性を受け入れる人が増加してきて、新しいことが生まれやすい環境になっていると思います。デザインに関して言えば、これまでは短期的な目的を果たすデザインが求められてきたのではないでしょうか。今後はそれこそ30年後、50年後に「あれよかったね」と言われる、これまで表舞台には出てこなかったような新しいデザインも出てくるようになるのではと考えています。

伊藤:今後we+として何か考えられていることはありますか?

林:これからは、作品だけではなくスタジオのあり方もまた、思想を伝えていく手段になるかもしれません。また新しい考え方を受け入れやすい社会に向かっているからこそ、僕らは「デザインにはもっと別の可能性があるのでは」というメッセージをこれからも提案してきたいと思っています。