山下貴成建築設計事務所の山下貴成+カン・ヨンア氏のインタビュー
NPO青山デザインフォーラム(ADF)主催の「ADFデザインアワード2024」の審査結果が発表されました。今回はホスピタリティカテゴリーで優秀賞(Excellent Award)を受賞された山下貴成建築設計事務所の山下貴成+カン・ヨンア氏をインタビュー形式でご紹介いたします。
建築家としてのバックグラウンドをお聞かせください。
山下は芸大の大学院を修了後、SANAAで10年間働いたのちに独立しました。カンはカナダ、アメリカ、イギリスで建築を学び、同じくSANAAで働いていたときに知り合い、2017年より一緒に設計をしています。互いに異なるバックグラウンドからなる多角的な考え方やデザインに対するアプローチで設計に取り組んでいます。
建築の中でも特に得意としている分野、フェーズはありますか?
クライアントからの要望をもとに、建築の形として最初の提案を行うときもエキサイティングなフェーズですが、プロジェクトが進んでいくなかで、新たな要望や建築を成立させるための制約、性能、コスト、つくり方など、対話を重ねて様々な条件を満たしていく過程は力を注いでいるフェーズです。条件が加わるたびに建築の形はどんどん変化していきますが、どれだけ最初のイメージをピュアに実現できるかを大切にしています。
アイデアを生み出す際、インスピレーションを受けるものだったり、考えをまとめていく時の手法で独自の思想があるのであれば教えてください。
その建築がたつ敷地や周辺環境から多くのインスピレーションを受けます。設計する際はまず敷地模型をつくり、建築のたち方として考えられる可能性を出来るだけ出すようにしています。その中で、周囲との関係を考えたときに建築がたったらどのような繋がりが生まれ、どう機能するか、どんな新しい環境がつくられるかなど、いかに魅力的なストーリーが描けるかを大事にしています。
建築以外のどのようなクリエイティブに興味がありますか?また建築に取り入れたりすることはありますか?
その時々で異なる分野から影響を受けるのでこれといったものはありませんが、あえて言えばストーリー性のあるクリエイティブに興味があります。起承転結というように、ある流れの中に変化や広がりがあり、最終的に何らかの形でしっかりと着地している作品に惹かれます。自分たちが設計している建築にもそういったストーリー性が感じられる作品を目指しています。
今回の作品の背景と、成果物に至るまでの経緯を教えて下さい。
高嶺の森のレセプションは、富士山麓の森という大自然にある一方で、既存にたつ人工的な切妻型の建物群との調和を考えたときに建築の形が生まれました。切妻と矩形の立面をカーブする屋根でつないだ建築が丘の上にたつことで、一群で自然環境とともにひとつの風景となるような佇まいができました。形を見つけていく過程では、主に紙でたくさんの模型をつくってスタディしています。紙は頭の中でイメージした形をすぐにつくれる良さがあり、試行錯誤しているうちに、ふとしたときに現れてくる形があります。そんな偶然のような必然のようなデザインを探っています。
今後どのような作品を作っていきたいですか?
設計の依頼に対して可能な限り建築に反映していくことはこれまでと変わりませんが、建築を使う人や、そこに訪れた人々が新しい発見や価値観を見出だせるような作品をつくっていきたいと思っています。
ADFについてどのような感想をお持ちですか?
デザイン全般に対して幅広いプラットフォームを提供している、日本では数少ない組織だと思います。ミラノデザインウィークといった世界的なデザインの現場に展示の機会を与えてもらえることは、今後活動の幅を広げていきたい建築家やデザイナーにとってはまたとないチャンスであり、大変光栄なことです。そうした稀有な機会づくりや文化・社会貢献活動に取り組まれていることが、まさに幅広いプラットフォームの形成につながっていると思います。
ADFが今後さらなる知名度を上げ、価値のあるアワードになっていくためにアドバイスをいただけますか。
日本発のプラットフォームとして、今回のように海外の審査員により世界的な基準で評価が行われることは、国内デザイナーとしては新たな視点で作品を見てもらえる貴重な機会です。我々を含め作品がそこまで多くなかったり、仕事を始めて間もなくの若い人々にフォーカスし、世界に向けての活動を後押しするきっかけとなるようなアワードであって欲しいと思います。
講評
フェルナンド・メニス / 建築家(スペイン ) / ADFデザインアワード2024審査員
静岡県御殿場市から富士山へ向かう風光明媚な山道沿いに位置する「高嶺の森のレセプション」は、周囲の自然と建築のエッセンスを見事に取り入れています。歓迎の場としてだけでなく、自然の壮大さや穏やかな風景と見事に絡み合い、それ自体が目的地へと変貌を遂げています。山下貴成建築設計事務所は繊細なデザインと適切なスケールにより、周囲の環境との見事な融合を実現しています。