モントリオールの自然史博物館「バイオドーム」の改装プロジェクト

地元の設計デザイン事務所カンヴァ(KANVA)によって行われた、モントリオールの自然科学博物館「バイオドーム」の改築が完了し、その優雅で壮大な全貌が明らかとなった。1976年のオリンピック大会のために建設された競輪場だった施設を改築して1992年にオープンした当博物館は、カナダで最多の来場者数を誇る複合施設の目玉となる観光スポットであった。2014年に国際的な建築賞の栄誉に輝いたカンヴァ(ラミ・ベバウィとチュ―ダ―・ラドゥレスクにより共同設立)が、$25,000,000の予算をかけた、バイオドーム、プラネタリウム、昆虫館、植物園にまたがる一大プロジェクト「Space of Life」の設計デザインに抜擢された。

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Exterior Entrance Approach - Biodome, Photo credit: James Brittain

バイオドームは、様々な生態系とそれを維持するために欠かせない複雑な機械装置などで構成された、非常に入り組んだ構造の建築物だった。これに手を加えるには、細部にわたる数多の工程を慎重に行使するための密な連携が必要とされた。全ての決断は、複数の分野を横断した協議を経て行われ、カンヴァが描いた筋書きの実現に多くの機関が協力して取り組んだ。

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Entrance Hall Visitors - Biodome, Photo credit: Marc Cramer

カンヴァは、まず、既存の建物を最大限に活かす空間設計を試みた。建物入口の低い天井を取り払うことで、空に突き抜ける高い天井とそこに生まれる雄大なスペースに、大量の自然光が注ぎ込むエントランスが完成した。建物本来の壮大なスケールを活かした受付スペースが、来場者を明るく迎え入れる。

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Entrance Hall Seating - Biodome, Photo credit: James Brittain

エントランスの開けたスペースは、様々な生態系を繋ぐ核となり、各生態系を覆う「生きた皮膚」のような外装は、来場者をガイドする役目を果たしている。この真っ白なパネルを利用したバイオフィリックな外装の建設は、構造工学の専門性を必要とした、特に複雑な工程のひとつであった。傾斜のあるアルミの構造に、カーブしてとりつけられた外装は、張力構造、片持ち梁、三角形の梁などを組み合わせて、サスペンションを固定。寸分の狂いも許されない構造には、機械的な接合部分も含まれ、あらゆる動きや調整に対応できるようになっていた。

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Subpolar Regions Entrance - Biodome, Photo credit: James Brittain

透明感のある外装は、斜めに切り取られた地平線と、天井から見える空と互いに作用し、融合することで、無限かつ静寂な雰囲気を創出している。また、「無」の中立空間から、隣接する生態系、つまり多感覚を刺激する発見空間へといざなう移行体験を、増幅させる役割も果たしている。

500メートルに及ぶ長さと、4階ほどの高さのあるこの外装は、非常にパワフルなツールです。白の純粋な美しさが既存のコンクリート構造を際立たせ、そのコントラストがまさにこの空間の象徴となっているのです。

ラミ・ベバウィ、プロジェクト建築の最高責任者

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Biophilic Core - Biodome, Photo credit: Marc Cramer

次に、各生態系への経路の見直しが行われた。バイオドームの5つの生態系に生息する250,000の動物と500種の植物を探索する旅を、来場者主導のもっとダイナミックなものにする、没入型の体験を提供できる経路が考案された。そこで、感覚の誘導に重きを置き、聴覚、嗅覚、触感、そして最後に視覚を刺激する経路を作った。静かなロビーから、ゆるやかに波打つ外皮に覆われた壁に沿って10メートルのトンネルを潜り抜けると、5つの生態系(熱帯雨林、ローレンティアン・メープルフォレスト、セントローレンス湾、ラブラドール海岸、亜南極諸島)への発見の旅が始まる。

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Tropical Rainforest Discovery - Biodome, Photo credit: Mathieu Rivard

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Gulf of St-Lawrence Aquarium - Biodome, Photo credit: Mathieu Rivard

入口のトンネルは、スペースを緩めるためにわずかな傾斜にとどめ、白の通路を通りながら、これから来る感覚のインプットに備えて「無」の時間を提供する。中央の核に到着すると、外皮に小さなスリット(エコトランジット)が出現し、各生態系への入口となっている。自動ドアを抜けると、目の前にはビーズのカーテンがかかり、視覚への刺激はまだない。気温の変化と匂い、そして音にさらされながらカーテンをくぐると、そこに新たな生態系が出現する。亜寒帯への入口には氷のトンネルが構築され、来場者は海鳥やペンギンの音やにおいを感じながら、気温の変化も体感し、生態系への移行を体験する。

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Subpolar Ice Tunnel - Biodome, Photo credit: James Brittain

さらに、生態系の上に新たな階を設け、熱帯雨林とセントローレンス湾の生態系を木々に囲まれながら行き来できる通路を建設した。通路は白い核と広がる生態系を上から見下ろす中2階に続いており、そこには生態系の維持に欠かせない機械設備の解説や対話型の教育展示などが設置されている。

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Exhibition Path & Skin - Biodome, Photo credit: James Brittain

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Biomachine Children Exhibition - Biodome, Photo credit: James Brittain

カンヴァのスタッフは、ペンギンの水槽を新設するにあたり、生物学者や獣医と何週も共に過ごし、ペンギンの泳ぎのパターンなどを研究した。また、ビーバーの生息地では、本物に近い状態を来場者に見てもらうため、ビーバー特有の建築技術を研究。ビーバーが自分たちで彫った木材を、ビーバーの生息スペースの壁や天井などのインテリアに利用した。

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Beaver Hut - Biodome, Photo credit: James Brittain

人間のためのデザインは、仮定をもとに行うことができるが、カワウソやナマケモノのためのデザインは、一からその生態を学ばないといけない。

ラミ・ベバウィ

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Gulf of St-Lawrence Ecosystem - Biodome, Photo credit: James Brittain

バイオドームは、人間と自然との新たな繋がりを構築します。6年を要したこのプロジェクトを通してかけがえのない学びを得ることができました。それは、建築が環境に変化をもたらすツールとなる、今後のプロジェクトへの革新的なアプローチへと繋がるでしょう。

ラミ・ベバウィ

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Glimpse of Exit Hall - Biodome, Photo credit: James Brittain

KANVA(カンヴァ)について

2003年設立のカンヴァは、モントリオールに拠点を置く、学際的な建築事務所。共同空間における最先端の思考、想像、描写、建築ができる15人の建築家が所属しており、数多くの賞や栄誉に輝いている。カナダ王立建築学会より建築新人賞を受賞(2015年)、カナダ評議会より「適応の境界」に関する研究を評価されArts’ Prix de Rome賞を受賞(2017年)、翌年にはImagoプロジェクトがワールド・アーキテクチャー・フェスティバルにて受賞。ドバイで開催される2021-2022万博のカナダパビリオンのアートインスタレーションを担当している。