歴史と現在をつなぐ
田中亮平 / G ARCHITECTS STUDIOが手がけた「末富青久カフェスタンド」は京都駅から続く烏丸通り沿い、ホテルやオフィスビルに囲まれた交差点にある木造2階建てのビルの1階にある。京都の老舗和菓子店・末富が新ブランドとして立ち上げた。
コーヒースタンドの奥行きはわずか1メートルほどで、人通りの多い通りでは見過ごしてしまいそうなほど小さく、質素な佇まい。奥行きが浅いため間取りはおのずと決まり、キッチンと休憩スペースは手前の通り沿いに並んで設置された。間取りはほぼ自動的に決まったぶん立面図を練ることに注力、スタンドの内外に関係なく垂直面を研究することに決定し銅の経年変化を科学的にコントロールする手法が検討された。
銅箔を壁に貼り、醤油と薬品で酸化させる。これは京都の老舗和菓子店である末富にふさわしいファサードを求めつつ、70年来のコーポレートカラーである「末富ブルー」を彷彿とさせる錆色を出すためでもあった。
実は末富の本店はコーヒースタンドから徒歩3分の場所にある。そこでスタンド全体が厚さ1mのブルーの看板として機能し、人通りの多い通りから本店へと顧客を誘うことを目指した。錆の古色は交差点に面したところと休憩スペースの2カ所に使用された。都市景観条例では、自然素材を除くファサードの色の使用を規制しているが、この色は塗装ではなく銅の酸化によるものであるため、自治体からも問題がなく許可がおりた。
銅をゆっくりと腐食させ赤褐色を作り出すには醤油、銅を素早く腐食させ古色を作り出すには塩化アンモニウムが使用された。風雨にさらすのみでは10年かかったであろう理想的な古色が、これらの化学反応のおかげで約3ヶ月で済んだ。
カフェが閉まっている間、休憩スペースはもともと建築の仮設足場に使われていたメッシュシートでできたロールスクリーンで覆われている。夜になり明かりを灯すと、昔、公家が使っていた簾(すだれ)に似て、壁の古色が透けて見える演出となる。歩行者のための「街灯」であると同時に、店の広告塔としても機能している。
田中亮平/G ARCHITECTS STUDIO
2004年 名古屋市立大学芸術工学部 卒業
2006年 東京都立大学大学院修士課程 修了
2006-2013年 隈研吾建築都市設計事務所 勤務
2013G年 ARCHITECTS STUDIO 設立
2014年 名古屋市立大学非常勤講師
2021年 日本大学非常勤講師
国内外での受賞歴多数。