自己と環境が再びつながる体験を提供
アトリエ・アーキテクチャー&デザインがノルウェーのドランメン・フィヨルドの北に位置する丘陵の湖水地方に設計した自然の隠れ家「ノルスク・リトリート」は、既存の環境に溶け込み自然に満ち溢れている。木々や湖、起伏に富んだ地形など、手つかずの美しい風景の中にあり、南向きの視界が開けている。アプローチは狭い渓谷を通り、川の水位によっては野生の川を渡る必要がある。背の高い松の木が立ち並ぶ静かな湖の環境が、ドラマチックな岩だらけのアプローチを引き立てている。立ち上る霧、オーロラ、そして寄り添うような輪郭が、この風景を特徴づけている。
人里離れた場所にユニットが設置されており、持続可能な素材と技術で利用者は自然に還る体験ができる。田舎のアイデンティティと自然界を損なうことなく、利用者がくつろぎ、回復し、元気を取り戻すことができるよう、内部空間と周辺環境は穏やかにデザインされた。本プロジェクトのクライアントは、他の人々が自然や静けさとのつながりから恩恵を受けられるようにすること、そして自然を傷つけることなく自然とともに生きることができることを実証することを希望した。現在ソーシャルメディアやテクノロジーは人々に断絶を迫っているがこの隠れ家はまさに逆行している。
その土地の自然の特徴と一体化させるという意図を踏まえ、シンプルなキャビンのフォルムは周囲の峰々や湖畔の針葉樹林の形と呼応している。すべてのキャビンが湖に向かって下り勾配を向き、森と湖の縁の輪郭に沿って配置されている。キャビンの前部は、木材と鋼鉄のフリッチコネクター(「木の柱」)で構成された最小限のシステムで持ち上げられ、荷重を地面に分散させる。これにより、建物の足跡が地面に軽く触れるようになっている。地元のスキーリゾートの交通機関が利用できるので、移動に不自由がある人のために遠隔地への代替アクセスを提供するとともに建設過程での二酸化炭素排出量も削減した。また、地面が凍結し動植物の多くが休息する冬の間に建設することで、環境へのダメージも減らしている。
「パッシブハウス基準」の気密構造による「ファブリック・ファースト」のアプローチにより、本建築は最適なエネルギー性能と低カーボンフットプリントを実現している。木材フレームと木材クラッド材は、地元ノルウェー産のものを使用しているため、輸送や組み立てが容易である。屋根と壁は「Tewo-Thermowood」と呼ばれるユニークなCLT(クロスラミネート・ティンバー)カセット製品で、外側に木材、内側にISO断熱材というサンドイッチ構造になったものが木材ダボで接続されている。この製品は、敷地から15マイル離れた場所で製造された。電力においては湖の水源にある既存のダムを利用したマイクロ水力発電機で発電し、湖底から熱を回収するコイルを利用した地中熱ヒートポンプで暖房。廃水は生物処理プラントで再利用され、建設によって影響を受ける天然資源を再利用している。地表水はキャビンを囲む「レイン・ガーデン」で濾過され、やがて水路に戻される。
ノルスク・リトリートは、工業化によって失われた意識を再び呼び覚まし、安寧、目的意識、また爽快感を保ちつつ、自己と環境とのつながりを取り戻すことを目的としている。
アトリエ・アーキテクチャー&デザイン
街と田園風景の両方をフィールドにする建築事務所。受賞歴多数。場所感覚を創り、生態学的、環境的、社会的につながりを保ち、デザインと細部へも配慮した価値を提供するような建築物、空間、景観を生むアプローチを採用している。それにより目先の目的を果たすだけでなく、地域社会の幸福と地球資源の保護に貢献する建築物を創造することを目指している。