古民家での暮らしVOL.12: 家と石垣
平地の少ない日本では、山を切り拓いて階段状に土地を造成したり、洪水の危険のある低い土地に盛り土をして浸水を防いだりなど、昔から様々な工夫を凝らして土地が利用されてきました。そのような土地の造成にあたってよく活用されてきたのが石垣と呼ばれる石積みの擁壁です。現在では石垣に変わってコンクリートによる擁壁が主流となったため、新たに石垣が作られることは珍しくなりましたが、古い石垣が残っている地域もまだ多く、特に古民家に住む場合は石垣の維持管理も必要になることが珍しくありません。
しかし、地域の衰退や文化の断絶により石垣の維持管理が行われなくなっているケースも多く、崩壊の危険性を孕んだ石垣も増えてきており、異常気象等による豪雨が頻発している近年、早急な対策が必要となっています。石垣の上に家が建っている場合や家の裏に石垣がある場合など、石垣の崩壊が家の崩壊につながる危険性もあります。土砂災害の危険のある場所を示したハザードマップで安全区域とされている場所でも、石垣が崩壊して家に石や土砂が流れ込むこともあるので注意しなければなりません。
家のメンテナンスやDIYに関する情報は数多くありますが、石垣のメンテナンスに関しては出回っている情報も少ないのが現状です。
石垣は表に見える積み石と、積み石の裏の小さなぐり石、そしてその奥の土砂からなります。石垣に使用されている石は全て重要なものなので、間に挟まっている小さな石も抜き取ってはいけません。間に挟まっている石が抜け落ちてくるとその隙間から奥のぐり石や土砂が外に漏れ始め、中に空洞が生じて崩壊の危険性が高まっていきます。
昔から石積みは草が生えると崩れやすくなると言われており、草が生えている場合、石垣の中に空洞ができて土が溜まっていたり、奥にぐり石がしっかり入っていなかったりすることがあります。また、石垣の隙間や石垣の縁に木が生えている場合は特に危険で、木の根が石垣を押し広げて崩してしまうことがあるので注意してください。
除草を行う際は根っこごと引き抜くと中の土まで一緒に出てきて空洞が広がってしまうため、表面の草のみ頻繁に刈り取るのがいいとされています。また、最近は除草剤を使った結果、土を抑えていた草の根まで枯れて中の土が流れ出し、石垣が崩壊してしまったという話も耳にします。草を根っこごと引き抜いたり除草剤を使ったりする場合は石垣の隙間にモルタルを補填するなどの処置も同時に行う方が良いでしょう。
石垣が膨らんで出てくることを石垣がはらむと言うのですが、この状態になるといつ崩壊してもおかしくないので、この場合も中にモルタルを補填するか石垣を組み直す必要があります。そのような場合は石垣メンテナンスの専門業者や土木事業者などに頼むのが一般的で、最近はモルタルに接着剤を混ぜたものを隙間に流し込んでいくモルダム工法という施工がよく行われています。
まだ石垣に隙間や空洞があまりない状態なら、左官に頼んで石垣の目地をセメントで埋めてもらい、小石や土砂の流出を予防するのも効果的です。
ただ、業者に石垣の補修を依頼すると数十万~数百万円かかるため、頼みたくても中々気軽に頼めないというのが実情だと思います。自治体によっては補助金が出ることもありますが、補助もない場合はDIYで対応しようとする人もいるでしょう。石垣内部の空洞化が進んでいる場合は素人では厳しいのでDIYを行う前に一度専門家に確認してもらう方が良いですが、状態がまだそこまでひどくないのであればモルタル注入袋(クリーム搾り器のような袋)などを使って自分で隙間にモルタルを注入していき、最後に表面の目地を覆って土砂流出の予防を行うことも可能です。ただし、その場合は全ての隙間を完全に覆ってしまうと逆に危険で、適度に水抜き穴を作っていく必要があります。石垣内に雨が溜まると中の土砂が水を吸って内部の圧力が高まるため、水抜き穴で内部の水を逃してあげないと圧力に耐えきれず石垣が崩壊してしまう危険性があるためです。その水抜き穴も適切に設置されないと意味がないので、DIYを行う場合も専門家にアドバイスを求めながら行う方がよいでしょう。
石垣の崩壊は大雨や地震の場合だけでなく、水道や排水設備等からの水漏れによって起こる場合や、側を通る道路や鉄道などからの振動によって内部が空洞化して起こることもあるので、石垣だけでなく家を取り巻く全ての状況に目を向けながら維持管理を行うことが肝要です。

野面積みと呼ばれる積み方で作られた高知城の石垣。
隙間だらけで雑に積んであるように見えるが、降雨量の多い地域では水捌けが良く崩れにくい野面積みがよく用いられており、野面積みの石垣の場合は水抜き穴を作ったり目地をモルタルで埋めたりしなくても良い場合が多い。
石垣の管理を行う際にもう一つ問題になるのが管理責任が誰にあるかということです。石垣は土地に付随します。土地の境界がはっきりしていればいいのですが、土地の境界が曖昧でどちらに石垣の管理責任があるのかわからない場合や、石垣のある土地の持ち主が不明の場合も珍しくありません。そのような場合は法務局で登記簿謄本を取得すると境界の位置や持ち主の名前を確認することができる場合もありますが、持ち主の連絡先までは教えてもらえないため、家の傍の石垣を持ち主の許可なく補修するわけにもいかず困ってしまうケースもあります。持ち主と連絡のとれない崩れそうな石垣がある場合は、まずは自治体に相談してみましょう。また、逆に自分の管理下にある石垣がないか確認し、崩れて被害を出さないように気を付けることも重要です。