古民家での暮らしVol.6: 木造家屋の耐久性と湿気

湿気や酸性土壌の多い日本では、木造家屋は常に腐食やシロアリ被害の危険にさらされています。ヨーロッパのように組積造の家を建てればその心配は軽減されますが、湿度が高い環境での組積造は結露などまた別の問題が生じやすく、日本では地震による崩壊の危険性もあり、近代にいたるまで木造建築が主流でした。

西洋の組積造と日本の木造の間には耐久性に対するコンセプトに根本的な違いがあり、一度建てれば基本構造が百年以上もつ組積造は、建材の質や壁厚、構造設計がそのまま建物の耐久性を左右します。それに対し、日本の木造建築は良い材を使ったとしても湿気やシロアリによって腐る可能性を否定できないので、ダメージを受けた部材を取り替え補修を行う前提で家を維持していくようにできています。特に江戸前後に建てられた古い日本家屋は組木という技法を用いて釘をほとんど使わずに木を組んで作られていることが多いため、その知識と技術を持っていれば周囲の部材を傷つけずに必要な部材だけを交換できる場合もあります。

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和洋家屋建築雛形図解より、足堅め四方差の仕口の図解。釘や金物を使わずに一本の柱に四本の木を接合する。

もともと家の中に水道や風呂・トイレがなかった昔の家では、戦後の生活環境の変化に合わせて後から水回りを付け足しているケースがよく見られます。日当たりのいい南側に玄関や客間が設置され、日当たりの悪い北側に水回りが配置されている家も多く、日の当たらない家の北側の床下、お風呂・台所・便所などの水回り、押入れなどの空気の淀みやすい場所は、湿気が溜まりやすく部材が特に傷みやすい場所だと言えます。

北側に台所などの水回りを作るという慣例は、男尊女卑や家父長制の思想が家の間取りにも反映され、女性の労働環境が軽視されていたという見方もあり、最近は間取りを考える際に女性の意見も取り入れて日当たりの良い南側に台所を作るケースも増えてきました。古民家を改修する際には思い切って間取りを大きく変えてみるのもいいでしょう。

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薄暗く寒い北部屋での水仕事は過酷であった。

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台所等の水回りが後から家の側面に増築された場合、屋根が高く設けられず、低い天井に合わせて床も低くなった結果、地面と床の間が極端に狭く通気性が悪くなっているケースもあります。台所などの水回りや日当たりの悪い北側に限らず、床は高くして床下に十分な空間を作り、通気性をよくすることが理想です。特に戦後の建物は建築基準法の改正に伴い、通気性の良い独立基礎から通気口が小さく湿気の溜まりやすい布基礎に変わったことで、昔より通気性が悪くなっているため、意識して通気性を良くしなければなりません。通気口の前に物を置いて通気口を塞いだり、床下にものを入れて通気性を悪くすることはしないで下さい。床下に吸湿剤や乾燥剤を入れるケースもありますが、湿度が溜まりやすい低い土地や湿地の上にある家では焼け石に水なので、通気性を改善し、湿気に強い建材を使用する方が現実的です。

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床下の風通しがいい独立基礎の古民家。床下に動物が入らないように板で塞いでいることもあるが、その場合は板を網などに替えた方が良い。

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布基礎の小さな通気口。これでは十分な換気を行うことは難しい。

エアコンの普及により機密性の高い部屋を求める人が増えた結果、何も考えずに機密性を高める改修をして通気性を悪くしたり、断熱が不十分なまま機密性を高くしたことで結露が起きたりして、家の寿命を縮めているケースもよくあります。改修して機密性を上げる場合は、結露が起こらないように断熱材などを入れ、必要に応じて通気口を設けるなどの工夫も必要です。

空調設備や鉄筋コンクリートの性能等の向上により、RCの住宅も増えましたが、戦後からバブル期にかけて建てられたRC造は材料に塩分の混じった海砂などを使用し、内部で鉄筋が錆びている粗悪な建造物も多くあります。それだから中古のRC造を購入する場合は要注意です。そもそも鉄筋コンクリートの耐久の法定耐用年数は50年とされているため、中古物件としての購入はおすすめしません。欠陥工事のないRC造であれば木造よりメンテナンス頻度を少なく抑えることも可能ですが、構造に関わる改修は木造よりも難しく、構造の一部分がダメになっただけで建て直さなければならないリスクもあります。改修維持を前提に考えるならばRCより木造の方が優れていると言えるでしょう。ただし、現代の木造家屋の中には粗悪な合成材でできたものもあり、良い材を使って大工が立てた古民家の方がハウスメーカーの新築より優れている場合もあります。木造家屋はRC造に比べたらメンテナンスに手間はかかりますが、きちんとメンテナンスをしていけばそれ以上に長く住み続けることも可能でしょう。