狭小地における集合住宅を都会の多様な生活様式に対応するメゾネット型住居に変身

東京・木場の小さな敷地に建つ住宅の建て替えプロジェクト「KIBA TOKYO RESIDENCE」を手掛けたのは、敷地を読み解き、環境に配慮しながら対話により作品を仕上げる、創立1959年の歴史ある建築事務所、栄建築研究所。東京都心部商業地域内、幹線道路に面した狭小地における小規模集合住宅は、都会の多様な生活様式への対応と建物付加価値向上のために、従来型の画一的住戸プランを見直して、建築基準法のメゾネット型住戸の特例等を適用することで多様な空間で構成される集合住宅へと生まれ変わった。

adf-web-magazine-kiba-tokyo-residence-s

Exterior View (daytime). Photo credit: Koji Fujii

さらに、歴史ある深川木場の立地からは、場所性・地域性を意識した意匠を心掛けている。木材の取引で知られる木場の歴史的な土地との調和を図り、建物とのバランスをとっている。その結果、外観は歴史的・文化的遺産を保存・継承しつつ、内部空間では新しい価値観やライフスタイルを確立している。外部空間で失われた木場の原風景の再生を、内部空間で都心部の小規模集合住宅の在り方を表現して、この場所にふさわしく、また人々の記憶を呼び覚まし、そして将来にわたって人々の記憶に残るような建築を創造している。

adf-web-magazine-kiba-tokyo-residence-sakae-architects-and-engineers-25.jpg

Exterior View. Photo credit: Koji Fujii

都市における狭小住宅の価値

東京では近年、古い建物の劣化や、狭い敷地に過剰なオープンスペースがあることが問題になっている。実際、都市再生によって多くの物件が一掃されている。本プロジェクトでは、東京都心の小さな敷地に、小さな住宅を開発することの可能性を探っている。

adf-web-magazine-kiba-tokyo-residence-sakae-architects-and-engineers-3

2FL: Type A (Single-dweller residences). Photo credit: Koji Fujii

多様なライフスタイルを都市に適応させるため、また、小さな建物のポテンシャルを最大限に引き出すために、本プロジェクトでは、敷地の大きさに制約がある中で、複数の生活空間を持つ構造を設計した。その結果、1つの建物に3つのタイプの住宅が誕生した。単身者向け住宅(Aタイプ)、夫婦向け住宅(Bタイプ)、子世帯向け住宅(Cタイプ)である。比較的小規模な建物ではあるが、異なるタイプの住宅を実現することで、都心部でのコミュニティ形成を促す。

adf-web-magazine-kiba-tokyo-residence-sakae-architects-and-engineers-6

4FL: Type B (Housing for couples). Photo credit: Koji Fujii

adf-web-magazine-kiba-tokyo-resi

6FL: Type C (Accommodations for families with children). Photo credit: Koji Fujii

江戸時代の東京「木場」の原風景を再現する

江戸東京の中心で水利のあるこの広大な地には、木材の保管場所としての歴史がある。木場の玄関口には、多くの木材小売業者が寄り添うようにして木材を立てかけ、保管していた。しかし、1981年にほとんどの事業者が新木場に移転したため、その原風景は変わってしまう。「木場」のルーツを意識した本プロジェクトでは、ファサードに木製のルーバーを採用し、木材が商店の入り口に立てかけられていた頃の木場の原風景を思い起こさせる。また、内部の階段や天井など随所にあしらわれた木材にも、「木場」の歴史的遺産への敬意を感じることができる。

adf-web-magazine-kiba-tokyo-residence-sakae-architects-and-engineers-1

Vertical wooden louver. Photo credit: Koji Fujii

技術的な課題

構造設計で最も重要だったのは、地盤が脆弱な狭い敷地に4本の柱を埋め込んだ鉄筋コンクリート7階建ての建物を建てることだった。真南に面した大開口部(Low-E複層ガラス)からは、豊富な日光が降り注ぎ、特に冬場は快適な室内環境を作り出すことができる。店舗正面に積まれた材木に代表される昔ながらの景観を再現するため、長さ約3m、高さ最大23mの木製ルーバーを設置。これは、上下端まで風圧と耐荷重に配慮して支持されている。木製ルーバーはリサイクル材を使用し、このプロジェクトにサステナブルで環境に配慮した要素を加えている。

adf-web-magazine-kiba-tokyo-residence-sa

6FL: Type C (Accommodations for families with children). Photo credit: Koji Fujii

adf-web-magazine-kiba-tokyo-residence-sakae-architects-and-engineers-24.jpg

Exterior View (nighttime). Photo credit: Yuichi Higurashi

数々の国際的なアワードを受賞

2019年に完成した本プロジェクトは海外でも高く評価され、「Architecture MasterPrize 2022」Winner、「A'Design Award &Competition 2021-2022」Winner、「ICONIC Awards 2022」 Winner、「Future House Awards 2022」Winner、「BLT Built Design Awards 2022」Winner、「LOOP Design Awards 2022」Winnerなど、国際的なデザインアワードを多数受賞している。

adf-web-magazine-kiba-tokyo-residence-sakae-architects-and-engineers-17

7FL: Type C (Accommodations for families with children). Photo credit: Koji Fujii

栄建築研究所について

栄建築研究所は、東京を拠点とする建築事務所。1959年の創立以来、フィスビル、公共施設、教育施設、住宅、医療施設、商業施設、工業施設など、数多くの建築物を手掛け、多種多様な作品を世に送り出してきた。企画・設計だけでなく、さまざまな建築サービスも提供している。CEOの山﨑栄介は、日本大学大学院理工学研究科建築学修士課程修了後、米国ニューヨークのプラット・インスティテュートで建築学修士号を取得した一級建築士。羽田空港第2旅客ターミナルビル、グランフォーレ強羅ホテル、上野西郷会館など多数のプロジェクトを手掛けている。